奈良県の牛耕用具 A-Ⅰー①  犂(からすき)

別名唐鋤、唐鍬
指定名称奈良県の牛耕用具
指定分類番号02-01-A-Ⅰー①
点数176
資料解説 畜力による耕起(土を耕す)用具。当地域では、牛に牽(ひ)かせて使用しました。
 土を掘り、反転させて、固くなった土を破砕して雑草や前の作物の残った株などを埋め込む耕起作業によって土がやわらぎ種まきや植付け作業がしやすくなるとともに、水や空気の通りがよくなり、有機物の分解を促進することや、雑草を抑える、などの効果が期待できます。しかし、広い農地を耕すには大きな労力が必要で、畜力を利用することで肉体的な負担が軽減され、大幅に作業効率を上げることができます。
 犂は、朝鮮半島や中国から最先端の農業技術として古代日本に伝来、各地の自然環境や歴史風土の中で受容され、あるいは改良を加えつつ用いられました。その反映として、各地に伝わる在来犂の形状には地域的特色がみられます。明治末~大正期に、安定性に優れた長床犂と深耕しやすく小回りのきく無床犂の長所を取り入れ、ボルト犂柱や鉄製ジョイントで耕深、耕幅が調整できる「近代短床犂」が考案されると、全国的に広まり、さらに改良を加えた多種多様の犂が作られて、1960年代に動力耕耘機が普及するまで使われました。
 畿内では、古くから犂耕が行われていましたが、その使用は富裕層に限られていました。また、奈良県の明治~大正後期の牛耕普及率は50~60%で、近畿圏の中でも高くありません。各戸で牛を持つようになったのは大正の終わりから昭和の初めに頻発した小作争議の影響で、それまで小作に出していた田を持主が自身で耕作するようになり、一戸で2町歩(約19,836㎡)以上耕作する家が増えたためといわれています。牛は高価で、牛の効率的な利用をはかるため、田植えの時期が異なる奈良盆地と東部山間部(田原、都祁、山添方面)との間で預け牛、借り牛などの風習も生まれました。
資料説明詳細犂(からすき)   (A)牛に牽引させる道具 (Ⅰ)耕土を掘り起こす道具  176点
 犂は、「犁床」の有無により「有床犁」と「無床犁」に大別されますが、これまで当館が県内で調査、収集した資料は全て有床犁です。当コレクションではさらに形態上から、第Ⅰ類(60点):長床犂(長大な犂床に犂柱と犂柄を接合、上部で弓形に湾曲した犂轅と接続して4つの部材を組み合わせ、四角枠構造)、第Ⅱ類(36点):中床犂(短小な犂床と犂身を接合、犂柱は犂柄、犂轅と接合して3つの部材を組み合わせた三角枠構造)、第Ⅲ類(74点):短床犂(犂床が犂柄と一体化しているもの、構造は三角枠構造)、A型(48点)は犂体が単体、B型(26点)は、本犂の前方に副犂(前犂)のあるもの(二段耕犂)に分類し、第Ⅰ~Ⅲ類に分類しにくいものを別に「特異」(6点)としています。

参考文献日本民具学会編『日本民具辞典』ぎょうせい 1997年
河野通明『日本農耕具史の基礎的研究』和泉書院1994年
(社)大日本農会編『日本の鎌・鍬・犂』農政調査委員会 1979年
岩宮隆司『奈良県の牛耕用具』概要説明(県教委提出資料「資料4」及び草稿)
牛の博物館台25回企画展図録「耕すー犂をひく家畜の風景-」奥州市牛の博物館 2017年
指定文化財総説奈良県指定有形民俗文化財「奈良県の牛耕用具」(平成19年3月指定)
 奈良県の農耕用具のうち、牛を利用して田畑を耕作する民俗資料群544点。①牛耕時に牛に牽引させる農具類(327点)、②牛耕時に牛に装着する道具類点)、③牛耕に使う牛の世話をする道具類(31点)からなる。
 使用年代は江戸時代末期~昭和前期、奈良県が稲作の反あたりの収穫量が全国トップクラスであった時期にあたる。収集地域は、奈良盆地を中心に奈良県全域にわたり網羅されており、奈良県の農耕技術の具体的な実態と変遷及び地域的特色をよく示している。 
備考個々の資料については、収蔵品データベースに掲載あり

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