お祈りとお供えもの

解説執筆:萩尾俊章(沖縄民俗学会会長)

沖縄の村落行事ではムラの御嶽(うたき:聖地)や拝所、井泉等に供物を供え、ムラの繁栄や豊穣・安寧などを祈願します。各祭事の供物は行事毎に異なります。通常は酒(泡盛)や花米・線香が基本ですが、例えば伊是名島諸見の米収穫祭旧6月ウマチー*1では定番の野菜の炒め物や刺身の味噌和え、ウブク(赤飯の俵握り)に加え米の神酒(ウンサウ)*2とヒツジ(シツギ)と呼ばれる米粉を練ったにぎりが登場します。これらが供物になるのはこの祭事だけです。祭事の由来や目的により供物も変わります。
 供物を大がかりに準備する祭事もあります。宮古諸島の多良間島のスツウプナカ(旧4月~6月)は豊年の感謝と祈願を行う祭事で、島の4地区には男性年齢層別の5つの座が各々あり、祭祀を司る老人座、予算経理担当の座、供物全般の調理を担う座、神酒等の準備の座、漁獲を行う座等があります。網漁で捕獲した魚類は刺身をはじめ、カマボコや和え物、てんぷら等に調理され、神酒とともに祭場に供えます。老人座が祈願して神歌を奉納、次いで神酒を捧げながら歌う儀礼が行われ、4地区毎に各座が見事な分担で祭事を遂行します。
 沖縄の正月は豚正月といわれるほど豚肉がよく登場します。戦後しばらくまで、各家では年末に正月用に豚をつぶすのが恒例でした。豚はチーイリチー(豚の血と野菜の炒め料理)にして仏壇に供え、脂身はラードに、三枚肉はスーチキー(塩漬け)にして各々甕に蓄え、大切な保存食でした。大晦日はソーキ汁や豚のレバーをゆで味付けした料理が定番で、正月のごちそうは塩漬豚肉の煮物、豚汁、赤飯などで、6日頃まで豚肉中心の料理でした。旧7月の盆行事では13日のウンケー(お迎え)にはウンケージューシー(人参、豚肉、昆布、生姜などが入った雑炊)、15日のウークイ(お送り)には餅と御三味(ウサンミ)(豚肉や昆布、かまぼこなどのおかず)を対にした料理を仏壇に供えます。       
 旧3月のシーミー(清明祭)は中国由来の祭事で、沖縄本島で盛んな祖先祭祀です。墓前に花や酒(泡盛)、白餅、御三味の重箱料理、菓子や果物等を供え、祖先の供養と子孫への加護を祈願します。御三味の材料は地域により様々ですが、主に豚肉、揚げ豆腐、赤カマボコ、昆布巻、大根、白身魚のてんぷらなどが入ります。宮古・八重山では旧1月に「あの世の正月」といわれる十六日祭が盛んで、若干の違いはあるが、同様な重箱料理が墓前に供えられます。
このように沖縄では祖先の祭事に肉や魚料理が供物となります。沖縄では日本本土に比べ歴史的に仏教が広まらず、精進料理の考え方は希薄です。また清明祭のように中国的な祭事の影響もあり、沖縄独特な行事食が形づくられたといえます。

*1 行事は新暦と旧暦が混在するので、旧暦のみ「旧」を付けてあります。
*2 ウンサフともいう。沖縄本島では一般にウンサクと呼ばれます。

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