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クリンクル・シリーズ「タンブラーJ」

作家小松誠 Komatsu Makoto
窯名(株)セラミックジャパン
制作年1975年
寸法7.0×8.0×8.0cm
員数1
解説 小松誠は、クラフト作家としての制作基盤を保ちながら、量産システム自体を道具として自己のアイデアを社会的に実現することを目指してきた作家である。石膏型による鋳込みで制作された作品は、小松自身の手により、あるいは小松と企業との共同作業により量産され人々の生活の中に入り込んでゆく。
陶磁器は焼成により歪みが生じやすい素材であるため、量産品としてデザインする場合に制約が多くなる。しかし小松は、あくまでも素材の性質を生かす立場から「陶磁器は歪んだかたちに適している」と発想した。また鋳込みという技法自体の本質である「転写」をそのままデザインに生かし、紙やビニールなどの「はかない」皺を陶磁器の永遠の造形に転写した。このようにしてクリンクルシリーズは、日常の器であると同時に新しい美感を備えた視覚触覚の対象物として、人々に直に新たな感覚と価値を提案するものとして生み出された。とりわけクリンクルシリーズの代名詞ともいえる皺の入った紙袋「スーパーバッグ1978」と、その前身である「タンブラーJ」、さらにその後の十年毎の展開を端的に顕わす「スーパーバッグ1988」と「スーパーバッグ1997」は、一連のシリーズの流れを如実に示す作品である。
 本作品「タンブラー J」は、小松が本格的に企業と連携してこのシリーズの量産に取り組んだ初の作品である。熱に強い磁器を素材にした「ホットウィスキーの為のタンブラー」を作ってみたいという意欲が出発点となり、紙・布・塩化ビニールなど違う素材の皺を型どりして鋳込みで制作した。このなかで小松は、日本人にとって最も古くて身近な「紙」を原型とする磁器作品の可能性に着目する。本作品は、小松がライフワーク「クリンクル」に取り組む端緒となる作品として極めて重要である。

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