薬食同源 暮らしのなかの養生食

解説執筆:西大八重子(生活文化研究所 西大学院)

「ヌチグスイ(命の薬)になりました」という言葉があるように沖縄では食べ物は薬に通ずるとする薬食同源の考えが生活の中に生きています。
この薬食同源を実践する養生食は数種の材料を組み合わせることを基本としています。その結果一皿あるいは一椀の栄養バランスがよくなり、あらゆる栄養素の摂取と薬効が期待できます。つまりチャンプルー、ンブシー、具沢山の味噌汁などの沖縄の伝統料理の多くは、そのまま養生食といえるものに仕上がっています。食物によって病気を予防し健康を維持するという中国医学の教えが伝わっているのです。その考え方は琉球王府の侍医を務めた渡嘉敷親雲人が1823年に著した食医学書「御膳本草」にもみることができます。養生食で使用する材料は漢方の生薬のような特別なものではなく、地元で収穫されるありふれた食材です。出産後の母親には母乳がよくでるようにと青パパイアと鶏の汁を与えます。疲れた時にはカチューユー(お椀に削り鰹と味噌を入れお湯を注いだ即席の汁)、風邪を引いたらチムシンジ(豚の肝臓と野菜を入れて煎じた汁)、のぼせにはイカの墨汁、関節が痛いときにはアシティビチ(豚足の煮込み)がいいなどと日常の食事に生かされています。養生食の中でもとりわけ珍重されてきたのがイラブ―でしょう。イラブ―とはエラブウミヘビのことで本島南部の久高島や宮古島、石垣島などで産します。通常燻製にされたものを料理に利用し、イラブ―シンジ、イラブ―汁は滋養強壮、神経痛、リウマチ、視力障害、腰痛など万病の薬として古来より重宝されてきました。このように沖縄の養生食にはシンジグスイ(煎じ薬)が多くターイユ(鮒)・チム(肝臓)マーミ(豚腎臓)などがありますが、いずれもニンジンやゴボウ、ンジャナ(ホソバワダン)、フーチバー(ヨモギ)など野菜を加えて煎じます。
身体を維持し健康を守るために必要な蛋白質(魚や肉)とビタミン・ミネラルを含む野菜や野草が多用されているのが特徴です。用いる野菜にもこだわりがあって人参は黄色い島人参でなくてはだめとか、このシンジにはンジャナ、あのシンジにはフーチバーでなくては効き目がないなどといいます。煎じた後に残る魚や肉、野菜も捨てることなくだし汁を足して汁の具として食します。食べ物を余すことなくしっかりと食べつくしてしまう習慣ですが、これも小さな島国の厳しい生活環境に生きた古人の暮らしの知恵の産物なのです。

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