プロローグ

解説沖縄の伝統的な食文化といえば、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。島野菜と呼ばれる野菜や豚肉、色とりどりの魚といった食材や、うまみたっぷりの料理、それらを大勢の家族と囲む食卓を想像される方もいらっしゃるかもしれません。私たちにとって身近に、そして当たり前に思える沖縄の伝統的な食文化は、実はさまざまな変化を見せながら受け継がれてきたものでした。
 その特徴や魅力はどのようなところにあるのでしょうか。

1.改めて知ってほしい、沖縄の伝統的な食文化の特徴
(1)魅力
【食材】
亜熱帯地域ならではの食材や、諸外国との交流・交易の歴史を背景に持つ食品など、さまざまな食材を使用しています。
【医食同源・健康長寿】
沖縄では「ぬちぐすい」と表現されるように、口にするものは薬効を持つとされています。いわゆる医食同源の考えが人々の健康と長寿を支えてきました。
【工夫・知恵・手間ひまかけた調理法】
厳しい自然環境に寄り添う生活の中から、食材を余すところなく大切に使う工夫や知恵が生み出されました。手間ひまを惜しまず、工夫をこらすことがおいしさの秘訣です。
(2)環境的・歴史的・文化的な特徴
【環境】
沖縄の食文化は生命力あふれる自然の恵みを享受する一方、高温多湿の気候や台風・津波などの自然の厳しさと折り合いをつけながらはぐくまれてきました。食材や調理法が限られながらも、生活の中で知恵・工夫がつちかわれたのです。
【歴史】
そういった食に対する工夫は、海の向こうにある周辺の地域や国々との交流・交易の影響を大きく受けていました。人々の生活がうつり変わっていく歴史の中で、沖縄の食文化も変化を遂げていきました。
【文化】
また、食事は人が生きていく上で欠かすことができないものでもありつつ、特別なお供え物や、大切な人をもてなすためのものなどとしても使われてきました。このように、沖縄の食文化の特徴は食事そのものだけではなく、沖縄のそれぞれの地域に根ざした生活文化や信仰とも深く結びついています。そして食文化の発展とともに優れた工芸が花開いていったことも挙げられます。したがって、食文化は沖縄の文化の中でも、重要な構成要素のひとつと言えます。
(3)担い手は、現代の私たち
今もなお形を変えながら、伝統的な食文化の流れをくむ料理が各地域や家庭で受け継がれ、作られ、食べられています。その体験こそが、「沖縄の伝統的な食文化」と私たちをつなぎます。

2.「伝統的な食文化」と「沖縄」
(1)なぜ今「伝統的な食文化」なのか
私たちの身の回りでは今や生活様式そのものが大きく変化し、世界中の様々な食事を体験することが可能になりました。それはひるがえって、食の選択肢が膨大に増えたとも言えます。
そのため、「自分が生活する地域の特徴は何だろう」「何が自分らしさを支えているのか」といった疑問をお持ちになった方は少なくないのではないでしょうか。
そういった問いに対し、「沖縄の伝統的な食文化」は、知識だけでなく、食べる体験を通して「沖縄らしさ」や「沖縄の生活」を感じさせるもの、「よりどころ」となって答えを導き出す手助けになるはずです。
(2)「食べること」の大切さ―体験を伴う継承・保存の重要性
「食事」は生命活動や文化的生活に欠かすことができません。人々にとってそれほど重要なものでありながら、長い時間その姿を留めておくことができません。つまり、無形の文化財なのです。
したがって、伝統的な食文化は現代でも多くの人々に繰り返し経験され、特徴的な味覚が記憶され続けないと、いとも簡単に絶えてしまう可能性があります。
どのような食事をするのかは健康状態や生活スタイル、嗜好等の状況にもよります。その中でも、皆さんの生活の中に少しでも沖縄の伝統的な食文化が取り入れられ、「食べる」経験が少しずつ積み重なることで、次世代への継承につながっていきます。

3.琉球料理を見つめ直す
沖縄で発展・継承されてきた琉球料理とは、どのようなものでしょうか。
「伝統的な沖縄の食文化9つの要素」
1.食材
各地域に根ざした食材-野菜、魚介や海藻、 豆腐、豚肉等-を多く用いるとともに、外来の昆布やスンシー(シナチク)等を巧みに取り入れ定着させている。本土のように食肉禁忌の影響が少なく、肉食文化が発達しており、特に豚肉食習が根強い。
2.調理法
基本的に加熱調理で、生食は少ない。油脂を用いた汁物、煮物、炒め物、揚あげ物が多い。豚肉は、茹でてアクや余分な脂肪を取り除き、下処理をしてから調理する。茹で汁はだしとして用いるなど、食材を無駄なく活用するのも特徴である。
3.味わい(だし)
豚のだし(肉・骨)とかつおだしをベースに、肉、 魚介、昆布、野菜、豚脂などを複合的に用いることで生まれる深い旨みやコクが料理の味の基調をなす。
伝統的な沖縄の食文化9つの要素
4.栄養
豚肉と昆布、島野菜と島豆腐の取り合わせに代表されるように、食材の相性を工夫し、栄養的にもバランスがよい。 健康によいとされる自然の素材や煎じ物(シンジムン)が多く用いられ、「医食同源」の考え方が根づいている。
5.菓子
琉球王国以来の伝統を受け継ぐ菓子職人によって作られ、50種類以上の多様さを持ち、それぞれ儀式や行事の際に用いられてきた。鶏卵糕(チイルンコウ)や光餅 (クンペン)など中国の影響が色濃く残る菓子が多いが、日本系や南蛮系の菓子もある。
6.酒
琉球王国時代、泡盛は江戸幕府への献上品や、また冊封使の饗応にも供された。現在でも、 冠婚葬祭や伝統祭祀、行事等の際にも供され、長く寝かせ熟成させた古酒として飲用されることも多い。
7.茶
沖縄でよく飲まれているのは、中国から伝わった清明茶や茉莉の花の香をつけたさんぴん茶である。
ブクブク一茶は、煎米湯とさんぴん茶、番茶の茶湯を合わせ、大きな木鉢と茶筅(ちゃせん)で泡立てた泡を飲む飲み物。沖縄特有のお茶で那覇で広まった。
8.食器
琉球漆器、陶器、磁器等を用いて料理を盛り付ける。螺鈿や堆錦のきらびやかな文様のある東道盆は、接客用の琉球料理を盛る器として王国時代から用いられ、料理とともに琉球の美を表現している。
9.風俗習慣
親族や地域住民が集まる行事や伝統祭祀の際に独特の料理がふるまわれるなど、料理は社会的な絆を再確認する媒体である。

また、琉球・沖縄の料理について、これまで「宮廷料理」、「庶民料理」、「行事料理」という3つの区分が琉球料理を構成していると言われています。
「宮廷料理」、「庶民料理」の区分は、料理が作られ消費された特定の地域や階級、場所を条件として設けられています。一方、「行事料理」は日常的な食事とは異なる、年中行事や冠婚葬祭といった人生儀礼などの特別な場面・行為に着目した区分となっています。そのため、「宮廷料理」と「庶民料理」の両方の区分の中にも、高い階級の人々の行事料理や庶民の行事料理というように、重なりあう部分があるのです。

(1)宮廷料理
琉球王国時代、国王家や王族、上級士族など一部の特権階級の人々は、下級士族や百姓(※ここでは琉球王国時代の位階制のうち士身分を持たない庶民を指します)とは異なる食生活・食文化を有していました。これらは諸外国の献立・調理技術を取り込みながら琉球で発展しました。
近代以降は一般へも普及するようになり、「沖縄の伝統的な食文化」に多大な影響を及ぼした重要な要素です。
(2)庶民料理
亜熱帯の気候・自然環境の中で食材や調理法が限られる一方、人々の生活の中で醸成された工夫・知恵により、栄養バランスが整った多くの料理が生み出されました。それらは地域・親族といった共同体の習慣や決まり事にそいながら、人々の健康的な生活を支えきたのです。
また、地域によって違いが見られます。例えば、首里・那覇といった都市部とその近郊の地域、農村・漁村地域といったちがいや、沖縄島周辺の離島、先島諸島といった島々でのちがいがあったようです。
(3)行事料理
沖縄では今でも様々な行事が盛んにおこなわれています。年中行事、人生儀礼、祖先祭祀など、神や異界、祖先に対して捧げる祈りは特別な機会だけでなく、日常生活の中にも溶け込んでいます。沖縄に伝わる行事は、琉球の古い時代に遡るとも考えられる祭祀儀礼のみならず、外来の文化・宗教の定着に由来する行事もふくまれ、これらが混ざり合いながら発展してきました。各地・各家庭で大切に受け継がれ、様々な交流を通して織りなされてきた行事の多様さは、琉球・沖縄の文化的な特徴の一つでもあり、それと同時に沖縄の伝統的な食文化に影響を与えています。
行事や信仰の場面では、供物やご馳走として、料理や菓子、酒、茶等が欠かすことができません。これらは基本的に共通していることが多いですが、地域や家庭によってそれぞれの決まりごとがある場合もあります。
こういった行事は、参加して食卓を囲み、そこで振る舞われる料理を食べることで「沖縄の伝統的な食文化」を体感できる機会となります。ひいては一緒に席を囲んでいる人とのつながりや、伝統的な行事・習慣の再確認ができます。そのような意味合いで、伝統的な食文化が過去と現在をつないでいると言えます。

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