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維摩図

資料名(ヨミ)ユイマズ
形状軸装
テーマ岩佐又兵衛関係
時代江戸
解説 本図は岩佐又兵衛の筆になる維摩図で、「山中常盤物語絵巻」(MOA美術館蔵)を海外流失から救ったことで知られる長谷川巳之吉の旧蔵品である。昭和46年の展覧会で公開されて以降、しばらく所在不明であったが近年再出現した。<BR>維摩居士は古代インドの人物で、在家信者(居士)でありながら大乗仏教の根本思想である「空」の真理に深く通じ、文殊菩薩と議論を戦わせたエピソードで知られている。その立場から中国禅宗界において深く尊崇され、その姿は古くから絵画化されてきた。<BR> 本図は頭巾をかぶり左手に払子を持つ維摩の上半身を大きく描く。衣文線はかすれをともなう粗い線で引き、面貌や手の部分はしなやかで張りのある細線によって表現されている。褪色等により、現状は淡墨淡彩の地味な印象を受けるが、制作当初はより鮮やかな作品であったと考えられる。また画面右下には「勝以」楷文二重円印が捺されていたが、現在は削り取られて痕跡が残るのみである。<BR> 図上には中国宋末元初の名僧虚舟普度(1199~1280)の径山寺住持時代(1277~80)の賛が書されるが、書体はもとより自筆ではない。そこから本図は、虚舟賛をともなう元時代の画像を、又兵衛が模写したものと考えられるが、一種妖気漂う維摩の表情には、又兵衛作品に共通する表現が見て取れる。また賛文の書体にも又兵衛の特徴が見られることから、これも又兵衛の手になる可能性が高い。<BR> 本図は又兵衛39~60歳の約20年にわたる福井時代の前半期、すなわち40代に制作されたと考えられる「金谷屏風」と作風において近似することが指摘されている。一方印章から考えれば、福井時代の後半、「樽屋屏風」(諸家分蔵)や「和漢故事説話図」(当館蔵)と同時代の制作となる。ただし削り取られた印章を正印ではないとする指摘もあり、本図の位置付けについては今後の研究が必要となるが、作風からみて福井時代の制作として大過ないと考えられる。<BR> 福井時代は又兵衛の生涯中、数々の代表作が制作された最重要期である。その意味におおて、本図はこの時期の作画活動を物語る貴重な1点であり、あわせて又兵衛の古典学習や、中国絵画の様相を考察する上でも重要とすることができる。
資料ID4638

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