FP201300001000_141215_001, 2014/12/15撮影, Public Domain

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騎士と死と悪魔

作家名アルブレヒト・デューラー Albrecht DÜRER
制作年1513年
技法、素材エングレーヴィング、紙
寸法24.3×19.2
分野版画(海外)
所蔵作品登録番号FP201300001000
解説《騎士と死と悪魔》は《メレンコリアⅠ》と《書斎のヒエロニムス》とともに、デューラーのいわゆる「三大銅版画」のひとつであり、西洋版画史ばかりか西洋美術史上に揺るぎない位置を占める歴史的な作品である。ショッホらによる版画総目録によれば世界の30余りの美術館がこの版画を所蔵している。主だったところをあげれば、アルベルティ―な美術館3点、大英博物館4点、メトロポリタン美術館5点、ボストン美術館4点、ワシントンナショナルギャラリー2点などである。国内の美術館では国立西洋美術館が1点所蔵しているのみである。
 デューラーは1513年から翌年にかけて木版画や彩色がを一切制作していないが、銅版画は13点制作している。そのうちの3点が「三大銅版画」で、これらは例外的に大きく、ほぼ同じ大きさで、複雑なイコノグラフィ―をもつ。この3点に主題や構図上の関連はないが、デューラーはこの三部作において、人間存在の根本問題に対する自身の見解を造形的に表現したと考えられている。
 《騎士と死と悪魔》というタイトルは18世紀に付けられたもので、デューラー自身は『ネーデルラント旅日記』の中で「騎手Leuter」とのみ呼んだ。同じ日記の中でデューラーは、この作品を解く鍵となる文章を書いている。「おお、ロッテルダムのエラスムスよ、貴方は何処に留まろうとして御在ですか?・・・聴きたまえ、キリストの騎士よ、馬を駆って乗り出でて主キリストと並び、心理を護り、殉教者の冠に手を差し伸べてください!」(前川訳、158頁)。エラスムスは『キリスト教の兵士の提要』(1504年刊)の中で、キリスト教徒の、敵意に満ちた世界との戦いを兵士の進軍(キリスト教巡礼者の旅のメタファー)と比較しているので、デューラーはこれを踏まえてエラスムスに「キリストの騎士」という言葉を使った。ヴェルフリンは「兵士の進軍」も「巡礼者の遍歴」も根本においては同じ事柄であり、「騎士のとって生涯が戦いであり、信仰に身を鎧い、死も悪魔も恐れぬキリスト者である」と述べている。越宏一氏は『デューラーの芸術』(岩波書店、2012年)の中で、この版画を〈プシコマキア(悪霊の戦い)〉という古い、キリスト教の一大テーマ――美徳と悪徳が人間の魂を戦場として繰り広げる戦い――を再び取り上げたのだとし、「この世の悪に直面しても、キリスト教の精神は不動であるという理念を、一枚の版画、すなわち、オーガニックな形態が生み出す彫刻的エネルギーが結局のところ、非合理的な北方のファンタジーが生み出す、実体のない幻影に対して打ち勝つというストーリーを象徴的に表現したものである」と総括している。
 造形的な見地からすると、騎馬像は2度にわたるイタリア旅行を通じて、サン・マルコ大聖堂の古代の騎馬像から、ドナテルロ、ヴェロッキオ、レオナルド・ダ・ヴィンチらの騎馬像などの影響を受けた古典的なリアリティをもって表現されているが、老いぼれた馬に跨った鼻のない「死」や豚鼻の「悪魔」の表現には北方的なバルバロイ(野蛮な)の伝統が息づいている。その意味では、北方的な絵画性や超越性とイタリア的な彫刻性や客観性とを統合しようとしたデューラーの造形志向が端的に表れた作品といえる。

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