宙仰

作家名松井和弘 MATSUI Kazuhiro
制作年2000年
技法、素材絹本着色
寸法182.0×364.0
分野日本画(日本)
所蔵作品登録番号JJ201000007000
解説ピエロ・デルラ・フランチェスカの壁画で知られるアレッツォのサン・フランチェスコ聖堂の壁画シリーズの一点である。松井がこの壁画に注目したのは、盛期ルネサンスのような完成度がないこと、当時はまだあまり知られていなかったことによる。1990年代には身廊の先にある内陣(中央礼拝堂/バッチ礼拝堂)全体をとらえた構図の作品を描いており、この時期には聖堂の建築空間にも関心が向けられていた。2000年代には内陣の一画面をそのまま一画面で描くことや、その一画面の中の一部だけを描くようになり、建築空間よりも絵画そのものに関心が集中してきている。2000年制作のこの作品は、画面に建築空間を取り入れる1990年代の手法に則った最後のもので、最も複雑な建築空間を描いた一点である。身廊の先端寄りから内陣を見上げた広角的な構図を取っており、身廊と内陣を隔てる場所にあるマエストロ・ディ・フランチェスコの《十字架のキリストとその足に接吻する聖フランチェスコ》は十字架の上部だけが描かれている。ピエロ・デルラ・フランチェスカの前任者ビッチ・ディ・ロレンツォ(1452年没)による《最後の審判》が内陣入口上部に、その奥のヴォールト天井には四福音書記者が描かれ、その下の左右の半円形の壁画には、暗くて見えづらいが、ピエロによる《聖十字架の賞揚》と《アダムの死》がそれぞれ描かれている。壁画が残っていない《最後の審判》の両側の壁面には染みが滲み出ているが、実際の壁面には染みはなく、この部分のたらし込みによる表現は画家の創意である。四曲屏風の中央2扇にこの内陣が、両側の2扇には脇の礼拝堂の上部が左右対称に配されている。四曲屏風だとちょうど実際の壁画の2分の1のスケールになっている。この作品は、身廊とそれに続く三つの礼拝堂がつくる建築空間を四曲する屏風に描くことで、描かれた絵画空間と屏風がつくる実空間の不思議な関係を生んでいる。

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