長沼村富士眺望図

作品名よみながぬまむらふじちょうぼうず
作品名(欧文)Distant View of Mt.Fuji at Naganuma-Village
作者司馬江漢
種別日本画
受入番号378
枝番号0
分類番号J-077
員数1幅
形状掛幅装
寸法(cm)38.5×70.0
材質絹本淡彩
材質英文Slight color on silk, hanging scroll
制作年(西暦)1804 - 1818
制作年(和暦)文化年間
記銘、年紀(左上)「駿州長沼村眺望 江漢司馬峻寫」 白文方印『司馬峻』 朱文方印『江漢』
受入年度(西暦)1981
受入年度(和暦)S56
受入方法購入
キーワード風景、富士山、静岡
解説江漢が水墨と淡彩によって富士山を描いた作品である。
江漢は、十八世紀末から十九世紀初頭にかけて、油彩による富士山図を数多く制作し、富士山図における新たな表現を開拓することに力を注いでいた。本作は、そうした試みを経た後、晩年に描かれた、伝統的な筆墨表現が用いられた富士山図であり、江漢の富士山図のなかでは最終的な段階にある作品と言える。
款記には「駿州長沼村眺望」とあり、本作には、現在の静岡県静岡市葵区長沼付近の景観が描かれていることが分かる。
江漢は、画面前景に水景を描き、湾曲する海岸線と富士山の雄大な姿を対比的に表す富士山図を得意としたが、本作では、富士山、そして谷津山と考えられる、画面中景に広がる丘陵、田圃が一体化するような、田園風景を描く点に特徴が認められる。
本作には、寛政年間の油彩による富士山図から晩年の水墨を基調とする富士山図へと移行する時期の過渡的な特徴が指摘できる。本作は、絹本に水墨を基調に描いた富士山図である、江漢晩年の作品とみなされる《景鳥村富士眺望図》(群馬県立近代美術館)のような作例と表現的な共通点が認められるが、本作の富士山の形態は、寛政年間に江漢が描いた油彩画の富士山図に近似している。富士山の輪郭は柔らかい筆線によってかたどられており、墨の濃淡を巧みに用い、山肌の凹凸が表されている。淡い朱と緑を隣合せに刷いた山肌、淡墨と淡緑を交え、変化に富む色調で表された樹叢の描写は、これらのモチーフに微かな光が注いでいることを想像させる。
本作におけるモチーフの描き方や筆墨、彩色表現には、光や大気を描くことへの江漢の関心が看取され、晩年の江漢の富士山図が、化政年間の文晁の富士山図に影響を与えた可能性がうかがわれる。
本作は、造酒業を営んでいた藤枝宿の大塚家に伝来したことが知られており、江漢の『西遊日記』には、天明八(一七八八)年に大塚家に滞在し、油彩画を制作したことが記されている。江漢の富士山図が東海道の宿場において人気を博し、本作のような江漢晩年の作例が享受されていたと考えられる。
晩年の江漢による富士山図の特徴を考えるうえで注目すべき作品である。

※成瀬不二雄 作品解説『司馬江漢 生涯と画業 作品篇』
  (八坂書房 一九九五年)
 山下善也 作品解説『描かれた日本の風景 近世画家たちのまなざし』
  (静岡県立美術館 一九九五年)
 塚原晃 作品解説『司馬江漢百科事展』(神戸市立博物館 一九九六年)
 福士雄也 作品解説『富士山の絵画展』(静岡県立美術館 二〇一三年)

2019年『対立と融和―十九世紀の江戸画壇』リーフレット、p. 47

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