第1図

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唐画流書手鑑

作品名よみとうがりゅうがきてかがみ
作品名(欧文)Studies of Chinese Ancient Masters
作者狩野伊川院栄信/狩野晴川院養信
種別日本画
受入番号1724
枝番号0
分類番号J-357
員数1帖
形状画帖装
寸法(cm)各25.6×28.2
材質絹本着色/墨画
材質英文Color/Ink on silk, album
制作年(西暦)1819 - 1828
制作年(和暦)文政2 - 11
記銘、年紀(第1図左下)「伊川院法印栄信筆」 朱文方印『栄信』 (第27図左下)「晴川法眼筆」 朱文方印『養信』
受入年度(西暦)2020
受入年度(和暦)R2
受入方法購入
キーワード狩野派、倣古図
解説栄信と養信の合作による倣古図である。
本作は見開きで栄信と養信の図が見られるように各図が貼られているが、図の順番には規則性は見出せない。第1図「(倣徽宗)桃鳩図」、第28図「(倣孫知軍(そんちぐん))栗鼠図」に栄信の、第27図「(倣夏永(かえい))楼閣山水図」に養信の落款が署されている。
本作には、江戸狩野派の倣古図の規範であった狩野探幽《学古図帖》(個人蔵)の図様が用いられておらす、栄信、養信が実見した図様や新しく得た情報に基づき、図様が選択されている点が特筆される。各図においては、探幽の倣古図とは異なり、伝馬遠《山水人物図》(個人蔵)、伝李安忠《鶉図》(個人蔵)、伝棲観《芙蓉映水図》(永青文庫)、伝夏永《楼閣山水図》(東京国立博物館)など典拠の作品の図様、表現が、江戸狩野派風にアレンジされずに、ほぼ忠実に用いられている。
本作の図様は、原本を忠実に模した《唐絵手鑑 第1・4帖》(東京国立博物館)中に同図様が散見され、両作品を比較すると、栄信、養信が原本を模した成果を活かし、倣古図において、その図様、表現の特徴をほぼそのままに再現することを重視したことが分かる。
本作は、《唐絵手鑑》だけでなく、狩野探信守道・探淵ほか《摹宋元画冊頁》(ボストン美術館)、狩野休圓玉信《唐画花鳥人物山水図》(東京藝術大学)のほか、狩野泰山院貞信(たいざんいんさだのぶ)《和漢古画貼交図屏風》(ボストン美術館)などの作品と共通する図様が認められ、栄信、養信周辺における模本制作と倣古図様式の展開が軌を一にしていたことがうかがい知れる。
栄信、養信は、本作において、古典名画の模本制作の成果を反映させることで、自家様式が古典に基づくことを示すという、倣古図元来の特徴を、視覚的に明示することを試みていると考えられよう。
本作各図においては、原本の図様や表現を再現することが試みられているが、僅かに栄信風、養信風の筆遣い、色遣いが用いられ、図様も要所のモチーフなど一部のみ変更されている点が注目される。とりわけ、各モチーフに施された彩色は、明度が高くカラフルで、栄信、養信らしい明澄な彩色が要所に用いられており、本作の各図は、制作されたばかりのように鮮やかに仕上げられている点が特筆される。
栄信、養信が、古典名画に対する幅広い知識を倣古図制作に反映させ、原本の表現を画中に生き生きと蘇らせる彩色表現を用いて、江戸狩野派の倣古図の新様式を確立したことを示す記念碑的な作品である。

※福士雄也「唐画流書手鑑」作品解説(『アニマルワールド 美術のなかのどうぶつたち』
  静岡県立美術館 2014年)
 野田麻美「幕末狩野派の倣古図様式の展開一狩野栄信・養信を中心に」
  (『幕末狩野派展』静岡県立美術館 2018年)
 野田麻美「模写と倣古一江戸狩野派の場合」
  (『日本美術のつくられ方 佐藤康宏先生の退職によせて』羽鳥書店 2020年)
 村角紀子「松江藩・乙部九郎兵衛の中国絵画コレクションと相見香雨一乙部家
  『御道具帳』と本屋平蔵『覚』」(『松江市歴史叢書』14号 2021年)

2021年『忘れられた江戸絵画史の本流―江戸狩野派の250年/江戸狩野派の古典学習―その基盤と広がり』、p. 54(211)より抜粋

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