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日金山富嶽眺望図

作品名よみひがねやまふがくちょうぼうず
作品名(欧文)Mt.Fuji
作者大岡雲峰
種別日本画
受入番号1283
枝番号0
分類番号J-307
員数1幅
形状掛幅装
寸法(cm)73.6×131.7
材質葛本墨画着色
材質英文Ink with color on kudzu, hanging scroll
制作年(西暦)1839
制作年(和暦)天保10
記銘、年紀(右上)「日金絶頂眺望」「雲峰寫」 白文方印『』『』
受入年度(西暦)2003
受入年度(和暦)H15
受入方法購入
キーワード風景、富士山
解説日金山(十国峠)から望む富士山を描いた作品である。
本作には、柴野栗山による漢詩が、栗山門下の儒者・大蔵謙斎(一七五七~一八四四)によって書されており、基となる詩は、栗山本人が谷文晁「日金絶頂真景図」(所在不明)に書していることが指摘されている。
本作の構図や表現は、文晁の「日金絶頂真景図」に拠ることが言及されているように、本作は文晁の富士山図との関連が深い。濃墨を用いた富士山の山肌の表現や、山岳に施された明るい緑などの彩色には、文晁の富士山図や実景図との共通点が見出される。
本作同様、日金山から富士山を望んだ景観を描いた中山高陽《八州勝地図》(個人蔵)と比較すると、本作は水景が少なく、富士山と他の山岳は筆線、色調などを変えずに描かれている点が注目される。かかる表現や、画面右に富士山を大写し、その前景に山岳を配する大観的な画面構成は、文晁《日金絶頂真景図》の淵源には、宋紫石《富嶽図》(個人蔵)のような作品があることを推察させる。
本作の特徴としては、絹ではなく、より目の粗い葛布に描かれている点が挙げられる。葛布の材質上の問題であろうか、本作は、原初の状態よりもかなり彩色が剥落もしくは変質しているようであるが、原初の状態では、谷文晁「錦屏山」(《相州名勝図帖》(東京国立博物館)のうち)のような、文晁が描いた、富士山を中心とする実景図の特徴である、鮮やかな彩色と筆墨表現が調和した作品だったに違いない。画面前景に描き込まれた二人の旅人の姿は、文晁の実景図に頻出するモチーフであり、雲峰が文晁の富士山図や実景図を学んで本作を描いていることを示唆している。
本作のモチーフは、力強い筆線と明澄な彩色によって表されているが、葛布のざらざらとした素朴な質感によって、文晁一派の富士山図や実景図に看取される技巧的な特徴が抑えられている点が注目される。文晁を中心とする江戸南画においては、関西南画に比して、マチエールにこだわり、素材の質感の違いを画の表現に生かす、文人画特有の表現は発展しなかった。本作は、文晁の富士山図の構図、表現を用いながらも、素材の質感を生かす点で、文晁の富士山図とは異なる特徴を有していると言える。
雲峰の画風を考えるうえでも重要な、文晁一派による富士山図の傑作である。

※福士雄也 作品解説『富士山の絵画展』(静岡県立美術館 二〇一三年)
 安永拓世「呉春筆『白梅図屛風』(逸翁美術館蔵)をめぐって」
  (『畫下遊樂(二) 奥平俊六先生退職記念論文集』藝華書院 二〇一八年)

2019年『対立と融和―十九世紀の江戸画壇』リーフレット、p. 48

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