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山水図(以古図)

作品名よみさんすいず(いこず)
作品名(欧文)Landscape with Bower and Waterfall
作者狩野栄川院典信
種別日本画
受入番号1249
枝番号0
分類番号J-298
員数1幅
形状掛幅装
寸法(cm)118.0×44.1
材質絹本墨画金泥引
材質英文Ink with gold paint on silk, hanging scroll
制作年(西暦)1762 - 1780
制作年(和暦)宝暦12 - 安永9
記銘、年紀(右下)「以古図法眼栄川画之」 朱文方印『典信』
受入年度(西暦)2001
受入年度(和暦)H13
受入方法購入
キーワード狩野派、風景
解説画中に「以古図」と記す、古画に基づき描かれた作品である。
画面前景には驢馬に乗る高士と童子、松が描かれており、水景を隔てて九十九折に奥へと続く道の手前には高士と童子がいる。九十九折の道の先には、滝を眺める二人の高士がいる東屋があり、東屋の手前には、荷物を背負った童子が坂を登っている。画面下方から上方にかけて、奥へ、上へとモチーフが積み重なり、人物は、画面手前下より上奥へ、鑑賞者の視線を誘導するように配置されている。構築的な画面構成が特徴の図と言えよう。
本作の図様は、狩野派の基礎を築いた狩野元信(一四七七?~一五五九)の山水画に基づくものであり、伝狩野季政(すえまさ)《月夜山水図》(九州国立博物館)と図様がほとんど一致している。伝狩野季政《月夜山水図》は、画面右の滝の部分が切り詰められているが、本作は滝よりも右側に続く図様が描かれている。一方、本作には《月夜山水図》の画面左側の図様が描かれておらず、基となる図様は、左方に続いていたことが推定される。
伝狩野季政《月夜山水図》を参照すると、元信による原本には、画面左の前景に大木、遠景に満月と山、舟が描かれていたようである。本作は、元信が得意とした、細緻に描き込んだ真体山水画の図様の一部を用いて描かれているとみなせよう。
画中の小禽や波、下草などのモチーフは細線によって描かれており、山や樹木などに掃かれた淡い藍、緑や朱、すやり霞の金泥などの色遣いは繊細である。江戸狩野派らしい細線、淡彩を基調として元信様式の山水画を描いた結果、岩や樹木などの形そのものは元信画と共通しているにもかかわらず、その表現は元信画からかけ離れ、実際に鑑賞した時に受ける印象は全く異なる点が面白い。元信が描く岩の描写においては、力強い輪郭線、鋭い斧劈皴、明澄な藍やオレンジの彩色などによって、塊量感や岩肌の質感が表されている。一方、典信が岩を描く輪郭線は、抑揚を失い、緩やかで弱い。皴とともに淡い墨面や藍が掃かれているが、岩の全面を覆っており、その描写は平板である。執拗に描き込まれた皴や点苔は輪郭線よりも強調され、ぐにゃぐにゃとした岩の形と、皴や点苔の広がる平面的な形そのものの面白さが誇張されている。その結果、奇形の山水が画中に表され、十八世紀の絵画らしい特徴が備わった山水画となっている。
なお、本作とほぼ同図様の作品を、より細緻な描写で表した、図様の完備した狩野栄信《山水図》(ボストン美術館)がある。栄信は、寛信と合作し、遠山を描き込む以外は本作と全く同図様の作例も残しており(狩野栄信・寛信《極密着色夏冬山水図》(『籾山家某旧家売立目録』大正八年十一月二十日)、本図様は、栄信にとって元信画の規範的な図様として認識されていたようである。
本作は、栄信の元信画学習が、祖父である典信以来の文脈で捉えられることを示す作品とみなせよう。江戸時代後期の江戸狩野派様式の土壌を形成した典信の史的位置をよく示す一作と言える。

※本田諭 作品解説(『狩野派-四〇〇年の栄華』
  (栃木県立博物館 二〇〇九年))
 小川裕久 作品解説(狩野栄川院と徳島藩の画人たち』
  (徳島市立徳島城博物館 二〇一三年))

2018年『幕末狩野派展』、p. 149

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