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三井寺

作品名よみみいでら
作品名(欧文)Mii-dera Temple (Woman in Deep Grief)
作者橋本雅邦
種別日本画
受入番号1166
枝番号0
分類番号J-286
員数1幅
形状掛幅装
寸法(cm)130.5×64.0
材質紙本着色
材質英文Color on paper, hanging scroll
制作年(西暦)1894
制作年(和暦)明治27
記銘、年紀(左下)「雅邦図」 朱文方印『雅邦』
発表展東京美術学校生徒成績物展覧会
開催年1893(明治27)
受入年度(西暦)1998
受入年度(和暦)H10
受入方法購入
キーワード狩野派
解説謡曲『三井寺』を題材に描かれた作品である。
わが子を誘拐され、狂乱状態となった駿河国・清見関の女が清水寺に参詣し、三井寺へ行くようお告げを受ける。三井寺境内で鐘を撞いたことが機縁となり、居合わせた少年がわが子と判明するという筋書きを絵画化している。
画中には、わが子に会える時が近づいていることを感じ、三井寺の階段をすさまじい勢いで駆け上がる清見関の女の姿が描かれている。
本作は、明治二十七(一八九四)年に開催された「東京美術学校生徒成績物展覧会」において、教授による模範作として出品された。
本作の基となる謡曲には、描かれた場面はないことが指摘されている。雅邦は本作の図様を一から構想したと推定され、それが斬新な構図、表現、内容を描くことに結実していると思われる。
本作のモチーフは清見関の女にほぼ限定されており、その表情や姿態を表すことに焦点が当てられている。清見関の女はわが子を抱くような姿に表され、鼻緒は切れ、衣服は乱れており、一心不乱に階段を駆け上がっている。清見関の女の囗は開き、わが子の名を呼んでいることを想像させる。その眼は見開かれ、視線は画面上方、わが子のいる階段の先に向けられている。
本作は、清見関の女の激情や刹那的な感情を表すことに焦点が当てられており、かかる主題表現には、それまでの日本画にはない先駆的な要素が看取される。
画中の描写において、雅邦は江戸狩野派の墨や絵具、筆遣いや色遣いは一切用いておらず、グレーがかった淡墨とカラフルな色感は、新しい時代の到来を感じさせる。本作には琳派風の筆線、彩色が用いられており、後に日本画家の間で流行した、琳派摂取の先駆的な試みとみなされている。
本作は、狩野派の画家が描いた画題、図様、表現から乖離しており、本作には、江戸狩野派に学んだ画家による作品としての側面は認められない。江戸時代の狩野派様式から脱却し、次世代の横山大観、下村観山、菱田春草らに続く日本画の行く末を決定付ける、新しい様式を確立した、雅邦の史的位置をよく示す作例と言えよう。

※山下善也 作品解説(『狩野派の世界 静岡県立美術館蔵品図録』
  (静岡県立美術館 一九九九年))
 石上充代「橋本雅邦《三井寺》における先駆性について―描法と主題から」
  (『アマリリス』九九号 二〇一〇年)

2018年『幕末狩野派展』、p. 186

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