家畜番の少女

作品名(欧文)Girl herding Pigs / Gardeuse de Porcs
作者ポール・ゴーギャン
種別油彩画
受入番号1141
枝番号0
分類番号O-134
員数1
形状額装
寸法(cm)73.3×92.1
材質キャンヴァス、油彩
材質英文Oil on canvas
制作年(西暦)1889
記銘、年紀(右下)P Gauguin 89
受入年度(西暦)1996
受入年度(和暦)H8
受入方法購入
キーワード風景、西洋
解説1888年2月、ゴ-ギャンは86年に引き続き、ブルタ-ニュ地方の小さな村ポン=タヴェンに滞在した。同年8月には旧知のエミール・ベルナールと合流し、「事物を前にして描くのではなく、想像力のうちに捉え直して描くべきだ」というベルナールとともに、象徴的総合主義の実験を続ける。すでに当時のゴーギャンは、「芸術とは一つの抽象作用だ。自然を前にして夢想しながら、自然から芸術を抽き出すこと」(1888年8月14日。シュフネッケル宛書簡)と述べるようになっていた。
こうした考えのもとに、翌89年春からの第三次ポン=タヴェン時代には、新たな画風が確立していく。1889年には70点の作品が制作され、その中には《美しきアンジェール》(オルセ美術館)、《戯画的自画像》(ワシントン、ナショナル・ギャラリー)、《今日はゴーギャンさん》(プラハ国立美術館)、《黄色いキリスト》(オルブライト=ノックス美術館)、《黄色いキリストのある自画像》(個人蔵)などの名作が含まれているが、規則的な筆使い、リズミカルな輪郭線、平面的に塗られた絵具による装飾的効果は、クールベや印象派流のリアリズム的描写とは明らかに異なる、心象の「総合的表現」を進めたものとなっている。
妻メット旧蔵の《家畜番の少女》は、こういった特色をよく示す風景画の一つで、1893年にはコペンハーゲンで、ヴァン・ゴッホの遺作とともに陳列されている。青・黄・赤の三原色を基調としたこの作品は、規則的なタッチを活かしながら、対象を二次元的・抽象的な色面にまとめあげ、ルネサンス以来の遠近法的空間表現(イリュージョニズム)を放棄している。画面左上の白いピラミッド形態は、解読不能な神秘性を示すが、三角屋根をもつブルターニュの農家のイメージを、ゴーギャン自身の抽象への欲求から変容させたものと解釈できるかもしれない。また風避け用フードを被った少女と三頭の豚を、中景の木立の前方に配した構図は、17世紀以来の西洋風景画の伝統である「牧歌的風景画」を受け継ぐものとして興味深い。
1891年4月、ゴーギャンはタヒチに旅立ち、93-95年の帰仏を挟んで、1903年の没年まで南海諸島で制作を続ける。これら晩年の作品は、より装飾的効果にみちた原色による色面構成を特徴としているが、そこに至る画風の変化は、1888年のブルターニュにおける「象徴的総合主義」の実験で明確になったといってよい。それは1905年に始まるフォーヴィスム(マティス、ヴラマンクなど)の運動や、1910年前後に展開する抽象美術を予告するものでもあった。

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