波(複製)

作品名(欧文)Wave (reproduction) / La Vague (reproduction)
作者カミーユ・クローデル
種別彫刻
受入番号978
枝番号0
分類番号S-054
員数1
形状立体
寸法(cm)61×45×60.5
材質ブロンズ
材質英文Bronze
制作年(西暦)1897 - 1903
記銘、年紀(後部左)C.Claudel/菱形印 1/8
受入年度(西暦)1992
受入年度(和暦)H4
受入方法購入
キーワード彫刻、西洋
解説■《波》
巨大な波を背景に、波打ち際で戯れる女性たちを表現した彫刻作品。3人の女性たちが手を取り合う構図は、古来より西洋美術で表現されてきた三美神を思わせる。また、波のモティーフは、19世紀前半の西洋美術の主題としてだけでなく、日本美術においても伝統的モティーフのひとつとして、確立していた。本作に19世紀フランスで流行したジャポニスム(日本趣味)の影響が見られることは、以前より指摘されている。1889年のパリ万国博覧会で、カミーユは作曲家クロード・ドビュッシーとともに、葛飾北斎の《富嶽三十六景》の「神奈川沖浪裏(かながわおきつなみうら)」を称賛したという。さらに、流麗で装飾的な波の形状は、当時フランスで流行した美術様式であるアール・ヌーヴォーとの関連を推測させる。
自然と、人の動きのダイナミックな一瞬を切り取った本作は、ロダンと別の道を歩み、師とは異なる独自のテーマと様式を追求したカミーユの到達点のひとつである。

■静岡県立美術館所蔵の《波》
ブロンズ彫刻は通常、はじめ粘土で作るが、粘土はこわれやすいため、これを焼くか、型を取って石膏像を作る。これら粘土を素焼きにしたテラコッタや石膏を、「原型(げんけい)」という。この「原型」から型を取り、銅・錫(すず)・亜鉛などの金属を型に流し込む、鋳造(ちゅうぞう)という行程を経て、ブロンズ彫刻ができあがる。石膏やテラコッタの「原型」から、数を限定して鋳造されたブロンズ彫刻が、「オリジナル」の彫刻作品と認められる。
カミーユ・クローデルは、1897年、パリの国民美術協会展に石膏の《波》を出品した。これは現在行方が分からない。カミーユの生前に制作された中で現存する唯一の《波》は、パリのロダン美術館が所蔵しており、波の部分がオニキス(縞めのう)、3人の女性像がブロンズでできている。
静岡県立美術館所蔵の《波》は、カミーユ没後、ロダン美術館所蔵の《波》から型を取って鋳造されたブロンズ彫刻である¹。
フランスでは、ロダン美術館所蔵の《波》から鋳造された、当館とは別のブロンズの《波》をめぐって訴訟が起こされ、2016年に判決が下された。その判決内容は、
①オニキスとブロンズの《波》から鋳造されたブロンズの《波》は、石膏やテラコッタの「原型」から作られたのではないため、「複製」である。
②複製権を認められたカミーユの遺族によるブロンズの《波》の制作および売買は、著作者人格権の侵害とは見なされないが、これら「複製」を「オリジナル」として提示することは、作品の統一性や著作者人格権の侵害である。
というものである。この判決は、「オニキスとブロンズを併用したオリジナル作品」から、カミーユ没後に鋳造されたブロンズの《波》を、「複製」とした。
当館の《波》は、カミーユとロダンとの関係からも、またカミーユの芸術における位置づけからも重要な作品として、ロダンとロダンから影響を受けた若い作家たちとを結ぶ橋渡しの位置に展示されてきた。当館は、フランスの判決を参考にするとともに、今後もカミーユおよびカミーユとロダンの芸術を理解するために、《波》を複製として展示・公開する。

¹ 2000. Anne RIVIÈRE. et al. 𝘊𝘢𝘮𝘪𝘭𝘭𝘦 𝘊𝘭𝘢𝘶𝘥𝘦𝘭 : 𝘤𝘢𝘵𝘢𝘭𝘰𝘨𝘶𝘦 𝘳𝘢𝘪𝘴𝘰𝘯𝘯𝑒́, Nouv. éd. rev., A. Biro, Paris.

PageTop