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春秋山水花鳥図

作品名よみしゅんじゅうさんすいかちょうず
作品名(欧文)Landscapes with Birds and Flowers in Spring and Autumn
作者狩野伊川院栄信
種別日本画
受入番号934
枝番号0
分類番号J-245
員数双幅
形状掛幅装
寸法(cm)各125.7×76.4
材質絹本着色
材質英文Color on silk, a pair of hanging scrolls
制作年(西暦)1802 - 1816
制作年(和暦)享和2 - 文化13
記銘、年紀(右幅右下・左幅左下)「伊川法眼筆」 朱文方印『栄信』
受入年度(西暦)1991
受入年度(和暦)H3
受入方法購入
キーワード狩野派、風景
解説春と秋の山水景観を、花鳥とともに描いた作品である。
画面前景には松や桜、紅葉などを、中景には松、千鳥、州浜などを描き、広々とした空間が表されている。後景には淡彩で山容や舟などのモチーフが細緻に描き込まれており、上へ、奥へ、空間はどこまでも続いているようである。
画面前景のモチーフを大きく、中景の水景を広々と描き、後景に小さく山容を表す空間表現は、たとえば狩野典信《春秋景物図屏風》(霊鑑寺)右隻にすでに看取され、狩野典信《天橋立図》(個人蔵)は、本作の春景幅と構図、モチーフの配置や空間表現などが類似している。また、春景幅の空間構成やモチーフの表現は、狩野惟信・狩野栄信《十二ケ月月次風俗図》(江戸東京博物館)や狩野惟信《山水図押絵貼屏風》(当館蔵)にも近似している。本作は、典信や惟信が模索した、奥行き深い空間構成の大和絵様式を栄信が継承し、発展させたことをうかがい知れる作品と言える。
各モチーフは濃彩と淡彩を使い分け、細やかに描き込まれており、絹地に溶け込むように明澄な、透明感のある水面の描写が美しい。画面前景、右幅には松の下に兎を、左幅には紅葉の下に鴛鴦を描き込んでおり、その姿態は愛らしい。画中に描かれた禽鳥は、色とりどりに、精緻に描き込まれており、その表情は生彩に富む。画面前景の松はメリハリのある筆線によって輪郭がかたどられ、中景の松は、没骨によって表されており、それぞれ繊細な筆遣い、色遣いによって描き分けられている。これらの描写は、本作が理想化された水辺の情景を表す図様を典拠とすることを想像させる。
本作の見どころは、どこまでも続くような、奥行き豊かな空間表現にある。水面と空、地平線が一体化したような遠景の描写は、江戸狩野派の作品に類を見ない、斬新な表現である。遠山の傍には帆船が描き込まれており、当時、谷文晁周辺で盛んに描かれていた、隅田川や江戸湾付近の情景を連想させる、現実感に富む描写も注目される。画面前景に展開する、桜の花びらがはらはらと散るなか、兎が草花の傍で戯れる、物語絵のような情景が、画面後景の現実感に富む描写と対比的に表されている点にこそ、本作の革新性が認められる。かかる表現は、狩野養信の傑作《胡蝶船遊之図》(永青文庫)へと展開する点が重要な意味を持つ。養信は、本作の春景図を若年の玉川時代に模写しており、本作の様式や表現が、栄信以降の幕末狩野派の規範となったことがうかがわれる。
幕末狩野派による新様式の完成を示す、記念碑的な傑作である。

※山下善也 作品解説『狩野派の世界 静岡県立美術館蔵品図録』
  (静岡県立美術館 一九九九年)
 内山淳一 作品解説『菊田伊洲 仙台藩の御用絵師』
  (仙台市博物館 二〇〇二年)
 野田麻美 作品解説『幕末狩野派展』(静岡県立美術館 二〇一八年)
 野田麻美「狩野栄信筆 春秋山水花鳥図」(『國華』1487号 二〇一九年)

2019年『対立と融和―十九世紀の江戸画壇』リーフレット、p. 39

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