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山水図押絵貼屏風

作品名よみさんすいずおしえばりびょうぶ
作品名(欧文)Landscapes
作者狩野養川院惟信
種別日本画
受入番号885
枝番号0
分類番号J-238
員数6曲1隻
形状屏風装
寸法(cm)各図139.5×48.5(総横368.6)
材質紙本着色金泥引
材質英文Color with gold paint on paper, a six-fold screen, an independent-panel
制作年(西暦)1781 - 1794
制作年(和暦)天明1 - 寛政6
記銘、年紀(各扇)「中務卿法眼藤原朝臣惟信謹画」 朱文方印『惟信』
受入年度(西暦)1989
受入年度(和暦)H1
受入方法購入
キーワード狩野派、風景
解説六曲一隻の各扇に一図ずつ、四季折々の山水の景観を細密に描いた作品である。
裂を一扇ごとにめぐらせた格調高い表具、古様な形式から、特注の制作である可能性が指摘されている。
各図の描写は精緻で、モチーフを描く筆線の一筆一筆に緊張感がみなぎっている。第二・三・四扇の各図には、中景に湾曲する水際が描かれており、モチーフの配置は画面奥へと鑑賞者の視線を誘導する。
本作の各図は、中国の古典名画に倣い、その構図を縦長にアレンジしていると思われる点が注目される。第一扇は、画面下方のモチーフの配置などが狩野栄信「(倣馬遠)山水人物図」(《唐画流書手鑑》(当館蔵)のうち)と共通している点が注目され、本作の第一扇は、馬遠が原本を描いた《山水人物図》を基にする図とみなせよう。
また、第三扇は、狩野探幽「倣任康民 江辺漁村図」(《学古図帖》(個人蔵)のうち)の図様と一致する。「倣任康民 江辺漁村図」は、《学古図帖》の山水図のなかでも珍しい、奥行き豊かな構図である点が注目されるが、惟信は、本作において「倣任康民 江辺漁村図」の図様を縦長に引き伸ばして用いており、惟信による《学古図帖》の学習成果が表れた一図と言えよう。第四扇には、伝趙令穣《秋塘図》(大和文華館)の図様が参照されており、本作には宋元の名画の図様が随所に引用されている点が特筆される。
本作の特徴としては、モチーフが非常に繊細な筆致によって描かれている点が挙げられる。たとえば、第二扇、飛来する群鶴や桜樹に止まる小禽、水中の魚、宮女などの細緻な描写には目を瞠るものがある。第六扇、亀を見る童子のあどけない表情にも目を凝らしたい。
また、第五扇、驟雨が樹木や茅屋、田畑を濡らす様子を淡墨と淡彩で表す描写は、狩野惟信「五月雨に白鷺」(《富嶽十二ヶ月図巻》(当館蔵)のうち)に類似しており、情趣豊かで季節感に富むモチーフの描写は、本作と《富嶽十二ヶ月図巻》双方に指摘できる特徴である。繊細な筆致、淡彩の用い方などには、惟信の南画に対する関心が現れているように思われる点も注目される。
本作は、惟信が次世代の栄信、養信による新様式の土台を準備したことを示すもので、各図には中国の古典名画の図様が用いられていることから、狩野栄信《楼閣山水図屏風》(当館蔵)などの先駆的作品と位置付けることが可能である。また、探幽が倣った中国の古典名画を改めて学び直し、自らの山水画様式を確立したことを示す点、南画的表現への志向が看取される点も含め、惟信の最重要作の一つと言えよう。

※山下善也 作品解説『狩野派の世界 静岡県立美術館蔵品図録』
  (静岡県立美術館 一九九九年)
 野田麻美 作品解説『幕末狩野派展』(静岡県立美術館 二〇一八年)

2019年『諸派興隆―十八世紀の江戸画壇』リーフレット、p. 29

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