略歴・解説 | ジャック・カロは、エッチングの黄金時代といわれる17世紀を代表する版画家。ロレーヌ公国(現在のフランス北東部)の首都ナンシーで生まれた。
1607年、15歳の時に金銀細工師ドマンジュ・クロックの徒弟となる。知られている最初の作品《シャルルⅢ世の肖像》はこの頃の作品であり、1607年の年記がある。1608年にローマに赴いたと思われ、複製版画制作を専門とするフィリップ・トマッサンの徒弟となり、銅版画技術を習得。アントニオ・テンペスタやラファエロ・スキアミノッシらとの共同作業の後、1611年頃フィレンツェに移る。文芸の庇護者として知られるメディチ家のトスカーナ大公コジモ2世付きの版画家に採用され、宮廷の主催した催しや舞台の模様を記録。またバルディヌッチによれば、建築家・銅版画家のジュリオ・パリージに弟子入りして透視図法を習得したという。
1621年、コジモ2世が没すると故郷へ戻り、その2年後からロレーヌ公アンリ2世の援助を受け、ロレーヌ公国の宮廷版画家として出仕。また貴族の娘と結婚。生涯に制作した版画点数は、リュールのカタログ・レゾネによれば1400点以上に及び、その名声は生前からヨーロッパ中に広まった。手がけた主題は非常に幅広く、宮廷の祝祭、宗教、風景、戦争のほか、当時の社会風俗を物語る人物たち(コメディア・デラルテ【仮面を用いた即興演劇】の登場人物、乞食、ジプシーなど)にも及んだ。 |