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富士八景図

作品名よみふじはっけいず
作品名(欧文)Eight Sights of Mt.Fuji
作者式部輝忠
種別日本画
受入番号662
枝番号0
分類番号J-120
員数8幅
形状掛幅装
寸法(cm)各97.5×32.8
材質紙本墨画
材質英文Ink on paper, eight hanging scrolls
制作年(西暦)1530頃
制作年(和暦)享禄3頃,室町末期
記銘、年紀(各幅右下または左下)白文方印『式部』 (第8幅上)「寅闇道人龍祟」 朱文鼎印『龍祟』(賛者:常庵龍祟)
受入年度(西暦)1983
受入年度(和暦)S58
受入方法購入
キーワード風景、富士山
解説式部輝忠(生没年不詳)の伝歴は不詳ながら、十六世紀半ばを中心として主に関東で活躍した画人と考えられている。
本作は、眺める場所や時間によって表情を変える富士山を八通りに描き分けたもので、葛飾北斎《富嶽三十六景》などを三百年近くさかのぼる、富士山の連作としては最古品となる貴重な作例である。「八景」という趣向、また描写内容からも明らかなように、ここには瀟湘八景という中国由来の山水画題のイメージが重ね合わされている。各図に建仁寺二六二世の常庵龍崇(一四七〇~一五三六)による賛が付される。
第一図は、米点であらわされた山並みのはるか上に突き出る富士山が描かれ、上部には雲がかかる。賛によれば、これは十月の姿だという。第二図は三保松原との組み合わせで、沖合には帆船が見える。賛はこれとあまり関係なく、富士山は冬景が一番良いことを述べる。第三図は第一図に近いが、山頂から煙を吐く姿が印象的である。賛では、箱根からの眺望を称える。第四図は近景に雪山を配する冬の富士山で、賛は駿河の人々が富士山を自慢の種にしながら、その存在に慣れっこになってしまっていると述べる。第五図は、第一、四図と同様に富士山は真っ白な姿で描かれ、落雁が添えられる。賛は、月の見えない冬の夜の光景としている。第六図は、雲の上からシルエット状の富士山が見える。賛によれば、夏の富士山に前年の雪がまだ消え残っている景だという。第七図は、やはり影絵のように黒い富士山と、月が描かれる。賛では、夕日に映えて赤い瑪瑙のように見える姿や、雪がすっかりなくなって黒い鉢を逆さにしたような姿など、富士山の容色が一定でないことをいう。第八図の富士山は山頂付近のみが白く冠雪し、落雁が描かれるのは第五図と同一である。賛は、秋になって富士山が雪を冠し始め、夏とは姿を一変させることを述べる。
図様自体は似通ったものも含まれ、必ずしも充分な描き分けが達成されているわけではない。しかし、第八図の賛にも誇らしげに語られているように、従来は異なる八つの場所を描いて八景を構成していたのに対し、富士山という単一のモチーフについて、それを眺める時間や場所の変化により八つに描き分けた、その新しい試みにこそ本作の意義は認められるだろう。富士山の絵画の長い歴史のなかでも、一つの画期をなす記念碑的な作品といってよい。こうした描き分けの意識が、やがて数多くの富士山ビューポイントの開拓につながっていく。
ところで、こうした八幅対の掛軸について、当時の史料には座敷東西の小壁に四幅ずつ掛けたという記録が残っている。本作の場合、表具裂が奇数幅と偶数幅とで異なっていることからすると、第一・三・五・七図の四幅と、第二・四・六・八図の四幅をそれぞれ向かい合う二つの壁面に掛けた可能性が考えられる。独幅二幅)や二幅対などで掛けられることも当然あっただろうが、やはりまとまりとして観てこそ描き分けの醍醐味が味わえるというものだろう。

2013年『世界遺産登録記念 富士山の絵画展』、p. 82

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