風間 完 画
潤一郎と春夫
よみがな | ジュンイチロウトハルオ |
---|---|
解説 | 昭和5(1930)年8月19日付の新聞各紙は、谷崎潤一郎が予てより不和だった妻の千代を離縁し、親友の佐藤春夫と結婚させることを伝えた。このニュースは文壇の域を超えたスキャンダルとして世間に受け止められ、谷崎と佐藤がそれぞれの夫人を交換したかのような誤解すら生んだ。だが、ふたりの作家にとっても千代にとっても、これは最良の選択だったといえるだろう。 もともと谷崎の好みは、鉄火肌で気性の激しい、男を男とも思わぬ妖婦型であり、健啖家の谷崎自身もそういった女と互角に張り合うだけの器量と体力をもっていた。ところが、人にすすめられて結婚した千代は従順で貞淑な、古風な女だった。たいていの男なら満足するのだが、谷崎には歯応えがなくてつまらない。その不足感から妻に辛く当たるのだが、千代の方は自分に落ち度があると考えて、いよいよ谷崎に尽くそうとするので、谷崎は家を空けて外で遊ぶことが多かった。 谷崎と親しかった佐藤春夫は谷崎家に出入りするうち、千代の境遇に同情を覚えた。やがて二人の間に芽生えたものは、古風な千代をして春夫に「これがわたしの初恋です」とまで言わせている。春夫の女性の好みは谷崎とは正反対で、まさに千代のような女性を理想としていたのだ。 千代に会えない間、春夫は絶唱「秋刀魚の歌」に託して、かなわぬ自分の想いを千代に伝えた。 「あはれ、人に捨てられんとする人妻と/妻にそむかれたる男と食卓にむかへば、/愛うすき父を持ちし女の児は/小さき箸をあやつりなやみつつ/父ならぬ男にさんまの腸(わた)をくれむと言ふにあらずや」 (「昭和史発掘」?) |
作品名 | 昭和史発掘 |