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演説者の杖/首長のシンボル(トコトコ)

資料番号Ⅳ-452-S
材質木、貝
地域オセアニア
国名ニュージーランド
民族名マオリ
収集者今泉隆平
コレクション名今泉コレクション
資料解説 トコトコ(Tokotoko)は、首長や長老、知識者などが持つことの多い杖である。単に杖として使われることもあれば、儀礼の場での挨拶や演説の際に用いられることもある。儀礼の場で使うとき、トコトコは杖としてつくためではなく、体の前で横に持たれることもある。マオリの社会では「話す」という行為が心を開け広げることと考えるが、そのタイミングを狙って呪術をかけることがあるという。その攻撃を防ぐために、この杖を体の前に構えるのである。
 単なる杖との最も大きな違いは、精巧な彫刻が施されている点であろう。この彫刻は、主にその所有者の系譜や歴史を語っている。マオリ語には書き言葉がなかったため、歴史や系譜を覚え、伝えるために、マオリたちは歌や踊り、物語だけではなく彫刻やタトゥーも用いた。マオリの彫刻には顔が彫られることが多いが、それは先祖の誰かなのである。そして、その先祖に5人の子がいれば、さらに5人の顔や象徴がその下に彫られることになる。そうした彫刻があることによって、それをみた子孫たちは、「誰々という先祖が自分たちにはいて、その人に5人の子どもがあり、自分はその何番目の子どもの子孫なのだ」、という語りを残すことができるのである。トコトコもそうした系譜や歴史が彫られる杖である。
 こうした彫刻から語られる歴史は、その彫刻に語られた物語を知らなければ正確に読み取ることはできない。そのため、このトコトコだけを見ても、どこから来たのか、誰が誰のために作ったのか、どういう物語が彫られているのか、説明することはできない。それは一方で、情報を秘匿しつつも、確実に次世代に伝えるために重要なことともいえる。なぜなら、重要な生活基盤であり、神聖なものでもある土地にアクセスするための権利を付与するものが系譜だからである。そのため、マオリにとって系譜の知識は重要で、神聖でもあり、それが故に血縁以外には知られるべきではないと考えられている。歴史は、文字情報として残されているのではなく、彫刻について話すという行為の中に蓄えられているのである。
資料解説記述者土井冬樹(天理大学)・2025年度Innovate
Museum事業

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