略歴・解説 | 本資料群は、書家の小森秀雲氏(1928~2019)が収集した拓本。小森氏は教員として勤務するかたわら前衛書家の中原一耀に師事。昭和30年(1955)に第11回日本美術展覧会(日展)初入選。昭和36年には第26回香川県美術展覧会(県展)文部大臣奨励賞を受賞。晩年に至るまで23回にわたり県展審査員を務めるなど、県内書道界を代表する書家として活躍した。
小森氏は、昭和51年から少なくとも25回以上に及んだ中国訪問で多数の拓本を収集したほか、東京の古書店などからも収集していたという。平成20年(2008)には、小森氏が主宰する墨華書道会が「秀雲中国原拓展」(高松市美術館)を開催し、本資料群の一部を含む小森氏の拓本コレクションを一般に公開している。
本資料群には中国唐代の名筆・顔真卿(709~785)の筆跡を伝える碑文の拓本、および遣唐使として入唐し客死した「井真成」墓誌銘の拓本が含まれる。
顔真卿は四代の皇帝に仕えた官僚で、王羲之や初唐の三大家が完成させた書法に則りながらも、後に「顔法」と呼ばれる独特な書法を完成させた。その書風は、留学僧として入唐した空海にも影響を与えたとされる。「井真成」墓誌は平成16年に西安で新たに発見されたもので、開元22年(734)に病死した留学生「井真成」に対し玄宗皇帝が官職を追贈したことを記し、魂が故郷に帰ることを願うと結んでいる。
いずれの拓本も、空海に至るまでの書道史や、空海同様に海を渡った遣唐使に関する資料として活用が可能なものである。なお、資料リストの時代欄には碑文の年代を中国元号で表記し、拓本の採取年とみられる墨書は内容・備考欄に注記している。
【参考文献】
「秀雲中国原拓展」運営委員会編『秀雲中国原拓展―墨華書道会創立50周年記念展―』(墨華書道会、2008年)
東京国立博物館・毎日新聞社編『特別展 顔真卿―王羲之を超えた名筆―』(毎日新聞社、2019年)
(香川県立ミュージアム『収蔵資料目録14』(令和6年刊行)解題より) |