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祖霊像(マランガン)

ME. No.10195
資料分類名彫像 Figure
現地名Malangan
素材木、巻貝の蓋(リュウテンサザエ科か)、白色顔料(石灰)、赤色顔料(赤土)、黒色顔料(木炭)、釘
L.(㎝)-
W.(㎝)-
H.(㎝)-
地域区分メラネシア Melanesia
推定収集地1ビスマルク諸島 ニューアイルランド島 南部パトパター地域 ナマタナイ村落付近/Bismarck Archipelago, South of New Ireland, Patpatar region, near Namatanai
収集者小嶺磯吉
寄贈者松江春次
執筆者1臺浩亮
解説1 慶應大コレクションに含まれるマランガン造形物のうちの1つ。口には恐らく牙が付随していたと思われるが現在は欠損している。性別を判別できるような身体の表現は確認できない。腹部と脚は赤色、胸部と両腕は黒色をそれぞれ基調色とする。また胴体全体には葉や多毛類の一種(palolo worm)を模した図案が線描される。胴体正面にはカモノハシであろうか、嘴をもつ四足動物と黒色の鳥、側面には魚を象る彫刻がそれぞれ付される。
 興味深いことに彫像全体、特に四足動物に集中的に釘が打ちつけられる。釘は来訪者が現地の人びととの交易を行なう際に交換財として用いたことが知られる。留め具としての機能は持たず、装飾的な目的で打ち付けられたと推定される。
執筆者2山口徹・臺浩亮
解説2 マランガン彫像を制作することは、当地の人びとによって「皮膚をつくる」ことに喩えられる.人は皮膚を重ねて成長する。系譜関係や個人の資質によって獲得した権威や権利が時どきの皮膚に刻み込まれる。マランガン彫像の多様な構成要素は故人が獲得してきた権威や権利の証であり、古いものから新しいものまで幾重にも重なる皮膚を透き通って身体の表面に浮かび上がってきた意匠なのである。葬送儀礼は故人に帰属していた諸権利を残された者たちへ再分配する場であり、縁故者らは彫像の外観を記憶することで継承の正当性を主張できるようになる。マランガン彫像は言うなれば、死する者と生きる者を取り結び,生きる者たちの社会関係を再構成する媒体ということになる。ただし、その制作の現場にはもう1 つの強力な作用が働いていた。19 世紀末から20世紀初頭に蒐集されたマランガン彫像の意匠は特に多様である。西欧から持ち込まれた鉄製加工具によって複雑な造形が可能になっただけでなく、「異形」を求める欧米のコレクター
や博物館からの需要が急増したことが意匠の多様化を促した可能性がある。

「文学部125年記念企画展 語り出す南洋の造形:慶應大所蔵・小嶺磯吉コレクション」展示冊子(pp.4-5)より
執筆者3山口徹・臺浩亮
解説3故人を表象する一木造りの彫像。浮き出る肋骨は、朽ちゆく肉体を表現している。毎年5月末から7月初旬にかけて開催される葬送儀礼マランガンは、複数の故人を親族らが弔い、村人たちが見守る前で嘆き悲しむ機会だった。1か月以上にわたって繰り広げられる一連の儀式のなかで披露するために、数か月かけて秘密裡に彫像が制作された。専門の彫刻師は、故人の母系親族から制作を依頼されると、その親族の創始とかかわるトーテム動物の神話や生前の故人が手に入れた名声や権威の証を造形物に刻み込んでいった。その過程のなかで、彫像に魂が宿ると信じられていた。葬送儀礼が終わると故人の魂は他界へと去り、役目を終えた彫像は破棄された。

「2016年度慶應義塾大学民族学考古学資料展 人を模る造形の世界:南洋・東洋・中近東」展示冊子(pp.2-3)より
過去に出品された展覧会「現代の眼-原始芸術から」(国立近代美術館、1960年6月11日~7月17日)
「語り出す南洋の造形:慶應大所蔵・小嶺磯吉コレクション」(慶應義塾大学三田キャンパス図書館新館1F展示室、2015 年1月9日~2月7日)
「人を模る造形の世界-南洋・東洋・中近東-」(慶應義塾大学三田キャンパス図書館新館1F展示室、2017年1月13日~2月8日)
本資料の掲載書籍南の會 1937『ニウギニア土俗品図集(上)』南洋興発株式会社、p.119 第50図3・4
川口幸也 2011「珍奇人形から原始美術へ―非西洋圏の造形に映った戦後日本の自己像―」『国立民族学博物館研究報告 』36(1): 1–34
山口徹監修 山口徹・安藤広道・佐藤孝雄・渡辺丈彦編 2015『語り出す南洋の造形:慶應大所蔵・小嶺磯吉コレクション』
臺浩亮 2016「ニューアイルランド島・マランガン彫像から読み解く『収集の歴史』-慶應義塾大学所蔵資料を出発点にして」『日本オセアニア学会Newsletter』116: 1-13
慶應義塾大学文学部民族学考古学研究室 2017 『人を模る造形の世界-南洋・東洋・中近東-』
土俗品図集No.421

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