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祖霊像(マランガン)

ME. No.1521
資料分類名彫像 Figure
現地名Malangan
素材木、赤色顔料(赤土)、黒色顔料(木炭)、白色顔料(石灰)、巻貝の蓋(リュウテンサザエ科か)
L.(㎝)127
W.(㎝)-
H.(㎝)-
地域区分メラネシア Melanesia
推定収集地1ビスマルク諸島 ニューアイルランド島北部 ティガク地域もしくはカラ地域/Bismarck Archipelago, North of New Ireland, Tigak or Kara
収集者小嶺磯吉
寄贈者松江春次
解説1葬送儀礼で故人を表象するために作られた一木造の彫像である。白を基調に黒と赤の顔料で彩色されており、目には貝、髪にはココヤシの繊維が使用されている。資料には広葉樹の葉の文様が全身に描かれ,鼈甲細工付き貝製ディスク(カプカプ)の意匠が胸部に見られる。像には,パンダナスの葉で編んだ女性用帽子に加えて、乳房などの性表現が見られる。口から帽子まで突きあがる長い舌や露出する肋骨によって異形の印象が増している。複雑な造形を丸太から彫り出すには、鉄製の道具が使われたと考えられる。

「文学部125年記念企画展 語り出す南洋の造形:慶應大所蔵・小嶺磯吉コレクション」展示冊子(pp.4-5)より
執筆者2山口徹・臺浩亮
解説2マランガン彫像を制作することは、当地の人びとによって「皮膚をつくる」ことに喩えられる.人は皮膚を重ねて成長する。系譜関係や個人の資質によって獲得した権威や権利が時どきの皮膚に刻み込まれる。マランガン彫像の多様な構成要素は故人が獲得してきた権威や権利の証であり、古いものから新しいものまで幾重にも重なる皮膚を透き通って身体の表面に浮かび上がってきた意匠なのである。葬送儀礼は故人に帰属していた諸権利を残された者たちへ再分配する場であり、縁故者らは彫像の外観を記憶することで継承の正当性を主張できるようになる。マランガン彫像は言うなれば、死する者と生きる者を取り結び,生きる者たちの社会関係を再構成する媒体ということになる。ただし、その制作の現場にはもう1 つの強力な作用が働いていた。19 世紀末から20世紀初頭に蒐集されたマランガン彫像の意匠は特に多様である。西欧から持ち込まれた鉄製加工具によって複雑な造形が可能になっただけでなく、「異形」を求める欧米のコレクター
や博物館からの需要が急増したことが意匠の多様化を促した可能性がある。  

「文学部125年記念企画展 語り出す南洋の造形:慶應大所蔵・小嶺磯吉コレクション」展示冊子(pp.4-5)より    
執筆者3臺浩亮
解説3 歯列を覗かせる口や、頭頂部に向けて伸びる舌、露出する肋骨は見る者の目を引き付ける。まさしく収集家達が求めた珍奇性/異形性ではないだろうか。
 赤・白・黒色で彩色されるこのマランガン彫像はパンダナス製の帽子や豊満な乳房、腹部の膨らみなどの表現から女性を模したものである思われる。眼部にはリュウテンサザエを加工した瞳が嵌入される。両腕の先端は欠損する。肋骨には透かし彫りの技法が認められる。鉄器の使用によるものであろうか。パンダナスの製帽子や腰巻の模様、胴体に施される葉の図案などが精緻な線描で表現され、耳や舌、腰巻には鋸歯状紋が多用されるなど珍奇性/異形性とともに高い装飾性を兼ねる彫像であると評価できる。
過去に出品された展覧会「現代の眼-原始芸術から」(国立近代美術館、1960年6月11日~7月17日)
「文化人類の宝庫 ニューギニア芸術展」(上野松坂屋新館5階、1962年9月11日~16日)
「語り出す南洋の造形:慶應大所蔵・小嶺磯吉コレクション」(慶應義塾大学三田キャンパス図書館新館1F展示室、2015 年1月9日~2月7日)
「人を模る造形の世界-南洋・東洋・中近東-」(慶應義塾大学三田キャンパス図書館新館1F展示室、2017年1月13日~2月8日)
本資料の掲載書籍南の會 1937『ニウギニア土俗品図集(上)』南洋興発株式会社、p.119 第50図1・2
読売新聞社編 1962『文化人類の宝庫 ニューギニア 芸術展』
川口幸也 2011「珍奇人形から原始美術へ―非西洋圏の造形に映った戦後日本の自己像―」『国立民族学博物館研究報告 』36(1): 1–34
山口徹監修 山口徹・安藤広道・佐藤孝雄・渡辺丈彦編 2015『語り出す南洋の造形:慶應大所蔵・小嶺磯吉コレクション』
臺浩亮 2016「ニューアイルランド島・マランガン彫像から読み解く『収集の歴史』-慶應義塾大学所蔵資料を出発点にして」『日本オセアニア学会Newsletter』116: 1-13
慶應義塾大学文学部民族学考古学研究室 2017 『人を模る造形の世界-南洋・東洋・中近東-』
土俗品図集No.420

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