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舞踏用彩色手持人形

ME. No.1518
資料分類名手持ち用具
素材木、白色顔料(石灰)、赤色顔料(赤土)、黒色顔料(木炭)、青色顔料(Reckitt Blue)、貝片
L.(㎝)78
W.(㎝)7
H.(㎝)10
地域区分メラネシア Melanesia
推定収集地1ビスマルク諸島 ニューブリテン島ガゼル半島・セントジョージ水道 トーライ部族/Bismarch Archipelago, New Britain, Gazelle Peninsula and Saint George' Channel, Tolai tribe
収集者小嶺磯吉
執筆者1吉田友里恵
解説1 ニューブリテン島ガゼル半島の人びとは,人を模った飾り棒や飾り板を持って踊る集団舞踏を好むことで知られてきた.最下部に持ち手が付けられ,軽量材で作られた展示資料もその一種と考えられる.頭の上に載る三角錐状の飾りには,一対の同心円模様が描かれている.当該地域でドゥクドゥクと呼ばれる男性結社が,儀礼用の仮面に描いてきた意匠と同一である.顔の輪郭に沿って均等幅の細溝が刻まれており,そこに埋め込まれた植物繊維で顎鬚が表現されていた可能性がある.胴体は蛇のようにくねり,その下端に2 本の足が付く.赤・黒・白で彩色されるが,一部に青色の顔料が用いられている.西欧の影響であろう.細部を見ると,貝片を用いた眼球には,赤色彩片を鉄釘で打ち付けて瞳が表現されている.

「文学部125年記念企画展 語り出す南洋の造形:慶應大所蔵・小嶺磯吉コレクション」展示冊子(p.9)より
執筆者2黑川由紀子
解説2 軽量材で作られた人形。最下部に持ち手を有する。人形の頭上に載る円錐状の飾りには、一対の同心円模様が描かれている。これはニューブリテン島における男性結社ドゥクドゥク Dukduk が儀礼で用いるトゥブアン Tubuan の仮面に描かれるものと同様である。顔の輪郭に沿って均等幅の細溝が刻まれており、そこに埋め込まれた植物繊維で顎鬚を表現した可能性がある。胴部は丁寧に研磨され、蛇のようにくねる滑らかな曲線になっている。その下端には2本の足が付く。このような形態は、ドゥクドゥクと同地域に存在する秘密結社イニエット Iniet への加入時に使用される人形にも認められる(Wardwell 1994: 122)ことから、本資料は二つの秘密結社に関連する要素を持ち合わせているようだ。赤、黒、白、青色で彩色が施されている。貝片を用いた眼球には赤色彩片を鉄釘で打ち付けて瞳が表現されている。(全体 山口 2015: 9)
(黑川)
執筆者3臺浩亮
解説3 ガゼル半島やデューク・オブ・ヨーク諸島、ニューアイルランド島南部では、男性秘密結社によって、トゥブアン Tubuan やドゥクドゥク Dukduk と呼ばれる大型の仮面とそれに纏わる知識が独占的に保有されている。トゥブアン仮面は黒色に彩色された円錐形の被り面である。前面には同心円文・多重円文による眼が描かれる。ドゥクドゥク仮面も円錐形の被り面であるが、細長であること、鮮やかな色で彩色される点で異なる。またトゥブアン仮面に特徴的な同心円文・多重円文の眼は、ドゥクドゥク仮面には描かれない。それぞれの仮面の制作権は個人や母系集団によって保有され、他の成員には秘匿され、製作される。葬送儀礼の際には、両仮面の演者は葉で拵えた衣装を身に着け、舞踏を行う。
 慶應大に所蔵される小嶺コレクションにはトゥブアン仮面、ドゥクドゥク仮面ともに含まれていない。しかし、コレクションの中には両仮面の演者を象ったと思われる意匠や同心円文・多重円文を使用する造形物が含まれている。これらの造形物が実際に儀礼の際に使用されたものであるかどうかは不明であるが、おそらくこの秘密結社の成員によって製作されたと推測される。
 小嶺はガゼル半島のココポを拠点に活動しており、現地の人々と直接遣り取りを頻繁に行っていたと推測される。そのために秘密結社に独占的に保有されるような芸術様式に関わる造形物の蒐集が可能だったかのかもしれない。
過去に出品された展覧会「語り出す南洋の造形:慶應大所蔵・小嶺磯吉コレクション」(慶應義塾大学三田キャンパス図書館新館1F展示室、2015 年1月9日~2月7日)
本資料の掲載書籍南の會 1937『ニウギニア土俗品図集(上)』南洋興発、 p.111 第XLVIII図 2・3
山口徹監修 山口徹・安藤広道・佐藤孝雄・渡辺丈彦編 2015『語り出す南洋の造形:慶應大所蔵・小嶺磯吉コレクション』
土俗品図集No.712

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