一寸法師一異常誕生・試練型

大分類伝承
公開解説子供のいない夫婦があって、十年位経っても子供が出来ないでいたそうな。どうしても子供が出来ず、あちこちの寺々で願を立てても子供が出来なかった。妻は足に大きなネィブトゥが出来ていた。夫は田打ちをしなければならないので、「お前は昼飯を作って誰か子供でも頼んで持たせよ」といって田打ちに出かけた。妻はネィブトゥが 脛に出来ていたかったので、縁側に坐り、臼に米を入れて餅つきをしていた。米をついていた時に杵の頭が柱にあたり、その杵でネィブトゥを打ち裂いた。ところが、そのネィブトゥから子供が生まれ、その子供が、「マアマ アスィ ナガ ムチイ キュン(お母さん、お母さん、昼飯を私が持っていきます)」といった。女はネィブトゥがいたくて苦しんでいるのに、子供が「是非自分がお父さんに昼飯を持って行く」という。あれ程いうのだから、ではためしに持たしてやってみようと思い、昼飯を作って持たしてやったところが、直ぐ田を打っている所に行って、「お父さん」といった。どうして、自分は子供はいないのだが、と思っていると、子供が、「アスィ ンキャギレィ(昼飯をおあがりなさい)」といった。アージャは一鍬売っては杭をさし、一鍬打っては杭をさしていうるので、「なんでそんなに沢山の杭をさしてあるのか」と子供がたずねると、「殿様が其処から通って『一鍬打っては杭をさせ』とおっしゃったのでそうするのだ」といった。「もう、相当遠く行ったのか。何処へ行ったのか」と聞くと、「まだ、そう遠くは行くまい」「何処へ行ったか」「此処から向こうへ行った」というと、馬に乗って追いかけていき、「殿様、あなたは一鍬打っては杭をさし、二鍬打っては杭をさせというが、そんなことが出来ますか」というと、「何のことか」というと、「今、殿様は、私の親に一鍬打っては杭をさし、二鍬打っては杭をさせとおっしゃったそうだが、そんな話があるものですが」といった。それから、殿様がその子を連れて、田を打っている所へ来て、「この子供を自分にくれてくれないか」 といった。親は殿様のおっしゃることだから、あげないとはいわれまいと思い、「お前は殿様にもらわれるか」とたずねたら、「うん、もらわれる」というので、殿様にくれ ることになった。殿様は、いい子をもらってきたといって、よろこび、家に帰って祝などをした。
それから、もう、翌日は亀津に行かなければならないからと、馬に鞍を掛け、殿様の弁当を持たせて行くことになった。子供は、曲り道、曲り道でその弁当をみんな食べてしまった。殿様が、道々「小僧」と呼ぶと、「おお」と返事し、「どうも足が痛いので馬と一緒になかなか歩けないものですから」という。殿様が、「小僧、お前はこの馬から落ちるものは大事に気をつけよ」といったら、「おお」といって、その糞をみんな弁当箱につていった。それからしばらく行って、広いカンパラに来て、アスィを食べようとして、殿様が弁当を開けると、一杯馬の糞がつめてあった。「なんでお前は弁当箱に馬の糞ををつめたのか」と殿様が聞くと、小僧は、「殿様が『馬の落とすものは 何でも大事にとっておけ』とおっしゃったので、弁当のご飯はみんな捨てて、馬の糞をつめたのです」といった。そこで殿様も、これは大変なやつだと思い、「さあ、今度はお前の上に足を打ちかけさせてくれ、そして馬の鞍をはずし、それを枕に、芭蕉着物を敷いて、ちょっと休憩しよう」といって休むことにした。すると、そっと枕にしていた馬の鞍をはずして、石を枕にさせ、自分の代わりに鞍を足掛けにし、自分は谷の底に立っていると馬の鞍がちょうどそこへクヮーンと落ちて来た。「ああ、主はどうして馬ン鞍落とすのは」と、いうと、「ああ、しまった。全然おぼえなかった」と、いうと、「ああ、しまった。全然おぼえてなかった」というと、その鞍を持って来てかけた。 それから馬に鞍をかけ終えると、主が「とう、自分はこれから亀津まで行って来るから、お前は家に帰ってツィグニョ(ツグみの)着てツィグガサ (ツグ笠)かぶって蜜柑をとっておれ、客が来るかもしれないから」といったところが、「おお」といって家に帰って来た。帰って来て、その家の一人娘に「おじょうさん、『あなたツィグニョを着、ツィグガサかぶって蜜柑むりゅれぃ(とっていなさい)』と主がおっしゃいましたよ」というと、娘はよろこんで、直ぐツィグニョを着て、ツィグガサをかぶって木に登って蜜柑をもり始めた。蜜柑をもっているとちょうど馬の音が聞こえてきたか鉄砲の音がした。「どう、子射り殺っち、これは、大変なことを主はした。自分の娘を射殺してしまったから、警察に訴えなければならん」というと「とお、とお、な、物いや(さあ、さあもう他言をしないでくれ)。まちげしたから」といって、 それから、「もうお前にはお金をやるから行きたい所へ行け」というと、「そんなことが出来るものですか。自分を子供にもらうといって、もらって来ておいて、そんなこ とは出来ません」というと、「これはもう本当にチマランギーサー(大変なことをした)」 といって、それから娘の葬式などすましたりした。今度は、「お前は原に行って来い。原にやどぅりがあって、そこで人夫たちが仕事をしているから、お茶を持って行って、 お前はやどぅりの中で戸を閉めてお茶でも飲んでいよ」といった。すると小僧は早速やどぅりに行って、人夫たちに、「あなた方はこの日中の暑い時にはやどぅりの中にはいって、戸を締めてそこで昼寝などするように、と主がおっしゃったよ」といったら、 人夫達は喜んで、やどぅりの中にはいって、入口を締めて休んでいると、自分はススキ原の中にはいってひっくり返っていた。すると、主がやどぅりの四隅に火をつけて、 やどぅりを焼いてしまった。
そこで、「主、あなたは雇人たちをみんな焼き殺してしまったから、今日はもう警察に訴えて来なくてはならない」というと、ああ、これはつまらんことをしてしまったと思い、それからものもいうことができず、「うらー、な、物いゃんごしれぃよ(お前断じて他言するなよ)」といって、家に帰ってみると、じょうしき(炊事)する者たちもいなかったので、「さあ、ではお前御飯を炊け」といって、女の親が、「主と二人のは大はがまに炊き、お前の分は小はがまに炊け」といって、小さい釜には薬を混ぜて やったら、御飯が出来た時には自分のは大釜のを入れ、主と二人は小さな釜のを入れて食べさせると、主と二人はそのまま死んでしまい、その後の財産はみなこのネィブトゥ種がとったという。
公開解説引用日本昔話通観(1980年発行同朋舎出版)247~250 ページ小川 学夫氏所蔵

日本昔話通観(1980 年発行 同朋舎出版)250 ページ 小川 学夫氏所蔵

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