蜻蛉集
| 作者 | ジュディット・ゴーティエ著 山本芳翠画 |
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| Artist | YAMAMOTO Hosui |
| Title | Poémes De la Libellule |
| 制作時期 | 1884年 |
| 技法・材質 | 紙、オフセット印刷 1冊 |
| サイズ | 32.0cm×24.8cm |
| 取得方法 | 購入 |
| 取得年度 | 平成10年度 |
| 所蔵品目録番号 | 0953 |
| 作品解説 | 空前の日本ブームだった19世紀末のパリで生まれた詩集である。『古今和歌集』などから選んだ和歌をフランス語にしたもので、パリ留学中だった西園寺公望が直訳し、それを詩人ジュディット・ゴーティエが詩の形にしている。 著者は、和歌の深遠な文学性を伝えようと苦心したが、その典雅な世界を再現するのに大きな役割を果たしたのが挿絵だった。日本語の題名を記した短冊の羽の蜻蛉が、フランス語の題名の枠にとまる粋なデザインの扉絵。淡い色を重ねた多色刷りの中頁には、飛び交う蜻蛉や、梅に鶯、富士山など。さらに、百人一首の絵札のような図や、風景だけで文字のない頁も加えられている。 手掛けたのは、日本洋画の先駆者の一人である山本芳翠。油絵を学ぶためにパリヘ渡り、現地の画家にも劣らない裸婦像や肖像画を描いていた。しかし、かつて本格的に日本絵画を学んだ経験を買われ、挿絵の作者として選ばれたのである。日本的なイメージが随所に織り込まれた絵図は、著者や読者の心を深く満足させたにちがいない。 ただ実は、芳翠は日本絵画の腕や知識を前面に出すようなことはしていない。むしろ伝統的な日本美術にはない表現を、あえて取り入れたのである。例えば、すやり霞の中に文字を配置する伝統的な手法には、遠近法を強調した構図を組み合わせた。あるいは、画面を横切る蜻蛉の大胆な配置も、琳派や工芸品をヒントとしたというよりは、例えばアール・ヌーボーなど、それらに影響を受けた西洋の手法に近い、大げさで分かりやすい表現を用いている。つまり芳翠は、「古典的な日本」ではなく、「フランス人が夢見る日本」を表現することを目指したのである。そうして生まれたモダンで軽やかな世界が、現代の日本人にも魅力的に映るのだろう。 ところで、帰国後、芳翠は浦島図など日本の画題を油彩で描いた和洋折衷のスタイルを生み出す。それらは、西洋の伝統絵画とは全く違う不思議な魅力を持っているが、『蜻蛉集』の挿絵の魅力にも、実は通じるものなのかもしれない。ともかく芳翠は、伝統的な日本絵画、本場の油彩画、どちらも描ける力を持ちながら、潔いまでにどちらも描かないのである。 (音ゆみ子「所蔵品から」『府中市美術館だより』第48号、2018年7月、府中市美術館) |
