丁未地震

作者安田雷洲
ArtistYASUDA Raishu
TitleEarthquake in the Year of Hinoto Hitsuji
制作時期弘化4年(1847)
技法・材質紙本銅版
サイズ13.7cm×20.3cm
署名等画面左上:丁未地震
取得方法購入
取得年度平成10年度
所蔵品目録番号0898
作品解説安田雷洲は、幕末期を代表する洋風画家です。はじめ、葛飾北斎の弟子として、本の挿絵や美人画を描いていたこともありましたが、むしろ、司馬江漢や亜欧堂田善の画業を受け継いだ、優れた銅版画などで知られています。
 この作品は、弘化4年(1847)3月24日に、信州を襲った地震を題材にしたものです。崩れ落ちる建物、逃げまどう群衆、激しくあがる煙。煩雑とさえ感じられるほどの、画面の隅々にまで及ぶ線描の集積は、地震の惨状を強烈に物語るとともに、作者雷洲の銅版画への情熱をも伝えているかのようです。遠景の山からは、火山の噴火のように激しく煙があがっています。倒壊する建物の描写にしても、地震というより大爆発のようです。雷洲は、絵画作品としての演出を加え、緊密で迫力ある画面に仕立てています。西洋の銅版画の表現に、強い関心をもっていたのかもしれません。
 銅版画の優品であると同時に、この作品には、興味深い側面があります。実際の事件を絵画作品として描くことは、当時多くはないのです。たとえば、江戸時代の中頃、宝永4年(1707)に起こった富士山の噴火にしても、天明3年(1783)の浅間山の大噴火にしても、事件のありさまを記録した当時の資料のなかに、噴火の様子がスケッチされた例はあるものの、それを題材とした「絵画作品」は、まれです。さらには、8年後に江戸で安政の大地震が起こった際、雷洲は、急ぎ、この力作の原版に手を加えました。題名の文字を変え、信州の山々を煙の描写で隠し、江戸の地震図に作りかえたのです。
 この作品には、江戸時代人雷洲の、濃厚で独創的な銅版画の世界とともに、美術におけるルポルタージュの目、という近代的一面を、みてとることができるのです。
(金子信久「所蔵作品から」『府中市美術館開設準備室だより』第10号、1999年11月、府中市美術館)

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