牡丹

作者石井柏亭
ArtistISHII Hakutei
TitlePeonies
制作時期昭和2年(1927)
技法・材質キャンバス、油彩
サイズ65.6㎝×100.5㎝
署名等画面左下:Hakutei 1927
取得方法購入
取得年度平成11年度
所蔵品目録番号0033
作品解説横長の画面いっぱいに描かれた牡丹の群生。画面3分の2は、前景にある幾つかの大輪の牡丹と蕾そして葉群れが占め、上部3分の1は遠景の林と青い山並みが占めている。中景のない、平坦になりやすい構図だが、左手前の牡丹が重なっているところと左下の土の部分、そして右手の陰になっている部分との関係など、かなり変化と運動感に富んだ深い空間を楽しめる。
 緑の中の白と赤。花の白は曇天の空に繋がり、赤は左手前の土の茶色と右上方のグランドに繋がっている。一見して平明な作品に見えるが、柏亭にしては意外に調子と色彩の幅が広く、複雑な絵画である。
「此牡丹は松戸の園芸学校の庭へ描きに行った。(中略)其処には起伏する丘の上に白、紅、暗紫各種の牡丹が作られて居る。此種の構図は昔ヴィッツマン夫人によって白馬会に示され又黒田清輝の《鉄抱百合》などに先鞭をつけられて居る。」(石井柏亭)
 日本画家石井鼎湖を父に持ち、浅井忠に師事し、二科会、日本水彩画会を中心に活躍した石井柏亭は、多くの著作を持った美術史家、批評家でもあった。明治後期の白馬会出品作の構図を本作のルーツとして挙げるなど、幅広い教養と抜群の視覚的記憶力を持った柏亭ならではの貴重な歴史証言である。ただ、柏亭の解説とは別に、この絵画には日本画や東洋画の空間を類推させるところがあり、近代における東西の視覚空間の交錯という意味でも興味深い。
 なお、本作は昭和2年(1927)の第14回二科展に出品されている。
(山村仁志「作品解説」『府中市美術館所蔵作品50選』2000年、府中市美術館)

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