女性のいる風景

作者レオン・リシェ
ArtistLéon Richet
TitleLandscape with a Woman
制作時期制作年不詳
技法・材質キャンバス、油彩
サイズ61.2cm×46.5cm
署名等画面左下:Léon Richet
取得方法石原悦郎氏寄贈
取得年度平成11年度
所蔵品目録番号0292
作品解説19世紀の終わり頃に活躍した風景画家レオン・リシェによるパリ郊外のバルビゾン村の風景です。風景というと、現代の私たちにとっては、一般的な絵の主題ですが、フランスでは、19世紀の前半にバルビゾン派と呼ばれる風景画家たちが登場するまで、宗教画などの背景でしかありませんでした。バルビゾン派の身近な風景を主役とした絵は、従来の伝統や画壇の常識に添わない点も多く、当初は批判や物議を呼びましたが、やがてたいへんな人気を得るようになったのです。こうした流れを受けて19世紀末には、様々な流派の画家たちがこぞって風景を描くようになっていました。この頃活躍したリシェは、バルビゾン派とは世代が異なりますが、その画風を忠実に受け継いでいます。
 雪景色や夕景など、天候や時間、季節によって変化する風景を描くことはバルビゾン派が取り組んだテーマのひとつですが、リシェはとりわけ雨の前後を好んで描きました。この作品では、雨上がりのほんの僅かの間の美しさを捉えています。空は雲で覆われていますが、その向こうの日差しで白っぽく輝いています。小道には水たまりも見えます。雨宿りでもしていたのでしょうか、女性が木陰で休んでいます。
 とりわけ雨上がりの清々しさをよく表しているのは、光の表現です。画面の右側から強く注ぐ光が、中央の二本の樹の片方と女性の上半身を照らしています。陽の光を反射して輝く水たまりも効果的です。深緑で描かれた樹の葉の光のあたる部分は、明るい黄色が重ねられていますが、輪郭に近い部分には緑の下に赤色が塗られており、逆光に照らされたような様子が表されています。この逆光の表現によって、空の明るさが強調されるのです。
 こうした光の表現は、画家が自然を観察する中で生まれたものには違いありませんが、単に目に映るままに描いたものではありません。構図上の計算や表現上の演出も加えられています。光に照らされた部分と影になる部分を手前から奥へと交互に配置することで、奥行きが生まれます。また、樹々の茂みで丸く抜かれた空間の向こうに建物を覗く構図も、光の効果によって、モティーフを重層的に配する面白みが強調されます。
 一見何気ない風景に、自然の光による演出を加えるのは、バルビゾン派の風景画の特徴です。この光の表現ひとつをとっても、リシェがバルビゾン派の画風を継承していることが、はっきりと分かります。
 ところで、リシェの活躍時期は、印象派やポスト印象派の画家たちと重なります。印象派やポスト印象派の画家たちも時代の流れを受けて、風景画を多く描きましたが、彼らはバルビゾン村だけでなく各地に主題を求めました。他の画家と同じ場所を描くことは、その画家の弟子であることを認めるようなものであったため、新しい絵画を目指した画家たちは、描く場所にも新しさを求めたのです。他方、リシェは生涯バルビゾン村に暮らし、その地の風景を描き続けました。画風だけでなく、こうした姿勢もバルビゾン派の後継者を自認するものであったと言えるでしょう。
(音ゆみ子「所蔵品から」『府中市美術館だより』第29号、2010年6月、府中市美術館)

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