コクリコの畑
| 作者 | ピエール=エマニュエル・ダモア |
|---|---|
| Artist | Pierre-Emmanuel Damoye |
| Title | Field of Corn Poppies |
| 制作時期 | 1879年 |
| 技法・材質 | 板、油彩 |
| サイズ | 31.8cm×59.3cm |
| 署名等 | 画面右下:E.DAMOYE.79. |
| 取得方法 | 石原悦郎氏寄贈 |
| 取得年度 | 平成11年度 |
| 所蔵品目録番号 | 0290 |
| 作品解説 | 画面の半分以上を占める空と平坦な地面。地平線を断ち切るように切り取った構図はあまりにも単純ですが、それはどこまでも続いていく広い大地と空を感じさせます。画面手前の収穫のすんだ畑では、農婦が積み藁を作っています。そして、畑のわきの野原には赤いコクリコの花。季節は、春の終わりから夏頃でしょう。細い茎をしならせながらコクリコの花が、風にゆらりゆらりと揺れています。薄曇りの空からそそぐやわらかな光が、野の緑をいっそう美しく見せ、雲の下からのぞく青空は、間近に迫る夏の訪れを予感させます。初夏のさわやかな風を感じる作品です。 「コクリコ(coquelicot)」は、もともとはフランス語ですが、日本では、その名以外に「ひなげし」「ポピー」「虞美人草」「アマポーラ」など、多くの別名でも愛されています。鉄幹を追って渡仏した与謝野晶子が詠んだ歌「ああ皐月 仏蘭西の野は 火の色す 君も雛罌粟(コクリコ) 我も雛罌粟(コクリコ)」でも知られる通り、フランスのあちらこちらで目にする身近で親しみのある野の花です。また、フランスの三色旗の青は矢車菊、白はマーガレット、赤はコクリコの色でしめされるように、フランス国民にとっては、特別な意味を持つ花であります。さらに、風景を描く画家たちにとっては、赤色のコクリコの花は、草原の緑色に色彩的な対比が美しいため、作画の上でも魅力的なモティーフのひとつでした。このようなわけで、風景を専門としたバルビゾン派や、彼らに続く印象派の画家たちが、コクリコの花を題材とした作品をたくさん描いています。 ピエール゠エマニュエル・ダモアも、バルビゾン派のひとりで、当時、大変な人気画家でした。《コクリコの畑》は、決して大きくはない作品ですが、大気の表情や光の捉え方からは、人気風景画家としての作者の力量がうかがわれます。赤い絵の具をリズミカルに並べたコクリコの花の表現や全体に明るく軽やかな印象の画面は、印象派の作品を思い起こさせますが、主題となっているのは、印象派たちが好んだ都会人の優雅な休日ではなく、コクリコの花と作業をする農婦の組合せです。そこには、自国の自然の美しさや大地に根をはり生きる人々を描くことを目指した、バルビゾン派の画家としてのダモアのこだわりが感じられます。 (音ゆみ子「所蔵品から」『府中市美術館だより』第26号、2009年3月、府中市美術館) |
