黒い雨

作者佐藤昭平
ArtistSATO Shohei
TitleBlack Rain
制作時期昭和37年(1962)
技法・材質キャンバス、油彩
サイズ129.6cm×97.3cm
署名等画面右下:1962. Syohei.Sato
取得方法佐藤ヒロ氏寄贈
取得年度平成11年度
所蔵品目録番号0142
作品解説絵の具は厚く塗り重ねられ、マチエール感が強調されている。薄く溶いた絵の具を上から垂らすなど、雨の描き方にも工夫がみられる。画面の上半分を厚い雲が横断するようにおおい、人々の頭上に雨が降り注ぐ。人物の群れは下方に押し込められ、中央に傘をさしている人もあるが、その他の人々は傘もささずに立ちならぶ。群衆は黒い影にすぎず、その表情をうかがうことはできない。
 佐藤昭平は、戦後まもなく武蔵野美術学校(現在の武蔵野美術大学)に学んだ。当時、在野の団体展として注目を集めていた自由美術展に積極的に出品している。戦後の抽象運動の影響を受け、初期には抽象的作品を描いたが、この作品にも平面的な構成への意識と素材感にその傾向が読みとれる。
 後に佐藤は、シュールレアリスム風の人物や昆虫が登場する幻想的な画風へと進んだが、そこにも自己の内面的な不安や葛藤を静謐な空間の中にイメージとして凝結させていく画家の性質は生きつづけた。それは、画家の故郷、新潟県新津市の風土とも関係しているように思われる。
 佐藤は、昭和34年(1959)に府中市晴見町に居をかまえた。本作はその後に描かれたものだが、ここにはどのような画家の意図が込められていたのか観る者には気がかりである。
 作品は昭和37年の第26回自由美術展に「雨と人」というタイトルで出品されたが、後で作者自身により《黒い雨》と改題されている。「黒い雨」とは、原爆投下後の被爆地に降り注いだ核に汚染された雨のことだろう。制作の真意について詳しいことはわかっていないが、穏やかな雰囲気からは被爆の陰鬱な感じは伝わってこない。むしろ画面は透明な叙情性に満ちており、静かに観る者を魅了する作品である。
(武居利史「作品解説」『府中市美術館所蔵作品50選』2000年、府中市美術館)

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