競馬

作者藤野龍
ArtistFUJINO Ryu
TitleHorse Race
制作時期昭和14年(1939)
技法・材質キャンバス、油彩
サイズ89.9cm×130.5cm
署名等画面右下:Foujino
取得方法藤野芳江氏寄贈(平成12年度管理換)
取得年度平成5年度
所蔵品目録番号0182
作品解説白っぽい毛並みの芦毛馬と、茶色い栗毛馬。二頭が前後しながら褐色の大地を駆けています。手前を走る芦毛馬は首を上げて必死の形相です。馬の足元からは土煙が舞い上がり、ドドドドッという足音まで聞こえてくるようです。手前の馬はすべての肢が地面から離れた瞬間、奥の馬は左前肢が着地した瞬間を描いています。二頭の尾は後ろにたなびき、疾駆するスピードが感じられます。馬の背には、首筋にしがみつくような姿で跨る人が描かれています。帽子をかぶり白いズボンに黒いブーツの出で立ちから、馬上の人は競馬の騎手とわかります。よく見ると、騎手の腰の下に白いゼッケンも見えます。《競馬》というタイトルのとおり、手に汗握るようなレースの一瞬が切り取られた作品です。
 作者の藤野龍は、昭和11年(1936)から北多摩郡多磨村(現・府中市白糸台)に住み、春陽会を中心に出品を重ねた画家です。北多摩の風景や庭の花々を描いた作品を多く残しています。本作は、昭和14年(1939)の春陽会展に出品され入選した一点。東京競馬場に取材したものと言われています。この年の秋には房総を旅行し、海女や漁師たちの姿を力強く描き出した作品も描いています。群像表現、そして躍動する筋肉の表現には本作に通じる画家の関心の在りどころが窺えます。
 いまでこそ東京競馬場は府中を代表する名所となっていますが、元々は目黒にあった競馬場が移転してきたものでした。移転してきたのは今からちょうど90年前の昭和8年(1933)。敷地面積は目黒の約4倍、一周が約2,100メートルという日本最大(当時)の競馬場として華々しくオープンしました。初開催となった同年の秋の開催時には8日間の開催で10万人を超える人が訪れました。
改めて本作に目を向けると、目に飛び込んでくるのは馬と、その背景に広がる褐色の地面です。一見しただけでは競馬を描いた絵と気づかないかもしれません。当時の東京競馬場の様子と見比べても、随分と雰囲気が異なります。描かれているのは、モダンな白亜のスタンドがそびえる競馬場ではなく、まるで草競馬のような土臭いシーンです。画家の関心は、武蔵野の大地とそこで躍動する馬たちに向けられているのです。
(大澤真理子「所蔵品から」『府中市美術館だより』第57号、2023年3月、府中市美術館)

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