早春の小川

作者松村健三郎
ArtistMATSUMURA Kenzaburo
TitleBrook in Early Spring
制作時期昭和5年(1930)
技法・材質キャンバス、油彩
サイズ45.7cm×53.3cm
署名等画面右下:K matsumura 1932
取得方法購入(平成12年度管理換)
取得年度平成3年度
所蔵品目録番号0196
作品解説左側に段丘があり、小川を挟んで右が畦道と畑になっている。左から右奥の方に流れる小川の未だ冷たそうな水面には、二本の樹木と水色の空が映っている。冬枯れの草の小麦色と、早春の雑草の若々しい緑色が混在する風景。春まだ浅い時期の武蔵野の冷たく澄んだ空気と、生命の再生への予感が一つの画面のなかに刻印されている。裏面木枠の部分には、「1930年3月」制作との年記がある。
 松村健三郎は、明治34年(1901)今の福島市に生まれ、今の茨城県土浦市の中学を卒業した。松村の父は裁判所判事だったので任地を転々としたが、実家は北多摩郡西府村(現在の府中市本宿町)にあり、大正10年(1921)、健三郎が東京美術学校図案科に入学してからはこの家に在住していた。在学中に光風会や中央美術展に出品。戦前には、他に春陽会などに出品していた。昭和33年(1958)、堀田清治らと新槐樹社の創立に参画。毎年この会に出品する他はほとんど作品を発表しなかった。戦後はずっと国立市のアトリエを中心にして、府中、多摩地域の身近な風景を一貫して描き続けた孤高の画家である。
 府中市には、一般に「ハケ」と呼ばれる段丘が2本東西に走っており(国分寺崖線、府中崖線)、この絵は松村の実家近く、本宿の府中崖線を描いたものである。立川段丘の地下を流れる透明な地下水、すなわち「ハケ」の湧き水を集めて流れる小川の景観は、武蔵野の典型的風景として多くの人々に愛されてきた。しかし、1960年代の都市化のなかで小川は急激に失われていき、このような風景は現在ではほとんど見ることができない。松村の絵画は近代の武蔵野の記録としても貴重なものである。
(山村仁志「作品解説」『府中市美術館所蔵作品50選』2000年、府中市美術館)

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