並蔵

作者石井柏亭
ArtistISHII Hakutei
TitleRow of Storehouses
制作時期大正2年(1913)
技法・材質紙、コンテ、グアッシュ
サイズ47.8cm×62.3cm
署名等画面左下:M. ISHII MATSUE 1913
取得方法購入
取得年度平成10年度
所蔵品目録番号0302
作品解説水辺の情景です。左前景に雑草の生えた土堤があり、画面の下半分以上を河の水鏡(みずかがみ)が占め、土壁の蔵が並んでいるのが映っています。水際はやや右下がりに画面を横断し、左上に一艘の小舟、右上には河で洗い物をしている人物のシャツの白さがアクセントになっています。おそらく現場で写生したのでしょう、コンテでかなりしっかりしたデッサンが描かれた上に、緑、茶色、褐色、そして白色の不透明顔料で薄く彩色しています。見るだけで懐かしくなるような、しっとりとした、それでいて透明で爽やかな空気と雰囲気が感じられます。
 石井柏亭32歳のときの作品。彼は春に紀州新宮の山林地主西村伊作宅に寄寓して、家族像を制作した後、夏には山陰松江に向かって絵画講習会を開きました。水の町松江の情景は柏亭の創作意欲を刺激したようで、《山陰水郷》などいくつか作品を残していますが、これはそのなかの一枚です。左下に「M.ISHII MAT-SUE 1913」と署名、年記が書かれています(柏亭の本名は石井満吉)。
 文献を調べると、柏亭は大正2年(1913)秋、第七回文展に《N氏と其一家》《滞船》《並蔵》の3点を出品しています。 2点が新宮での制作、そして本作ですが、評論家森田亀之輔は以下のように書いています。「《並蔵》の作者石井氏は他に、群像と《滞船》とを出品してる。其内《並蔵》が一番佳い。石井氏の歯切れのいい技巧はいつでも心地よく思うが、単にそれだけではつまらない。《並蔵》もクレヨンの痕鮮やかに人は其技巧に魅せられるが、ただそればかりではなく、何といって表したらいいか、沈んだ、水っぽい、水の町とでもいう様な、本所、深川の或る部分にでも見られる様な情趣が、しんみりと感じられる。情趣が主で、技巧が従になっている所に価値がある。(原文は旧漢字旧仮名つかい)」『美術新報』(大正2年11月号)
 なお、この水彩は翌大正3年の第二回賞美章(美術新報主催)も受章しています。日本画家石井鼎湖を父にもち、二科会を中心に大正、昭和と洋画界の中心に居続けた柏亭ですが、あっさりとした味わいでしかも情緒ゆたかな水彩に佳作が多いのも、伝統的な山水画のセンスを小さいときから持っていたからかもしれません。
(山村仁志「所蔵作品から」『府中市美術館開設準備室だより』第8号、1999年3月、府中市美術館)

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