風景
| 作者 | 里見勝蔵 |
|---|---|
| Artist | SATOMI Katsuzo |
| Title | Landscape |
| 制作時期 | 昭和10年(1935)頃 |
| 技法・材質 | キャンバス、油彩 |
| サイズ | 45.0cm×52.8cm |
| 署名等 | 画面右下:里見 |
| 取得方法 | 購入 |
| 取得年度 | 平成8年度 |
| コレクション名 | 河野コレクション |
| 所蔵品目録番号 | 0143 |
| 作品解説 | 「遠くの山と手前の川の雪景色」について、個人的な体験(スキーで、故郷や身近な場所で、遠い昔に見た、あるいは夢で見たなど)に照らしてイメージ(想像)してみてください。山と川面をおおい隠す目の前の大雪について、どんな色が思いつくでしょうか。 雪は、誰しも真っ白、純白をイメージしますが、冷たく凍てついた感じや、まぶしい感じから白銀、銀世界ともいわれるように銀がまじったような惑じもあります。どかどか舞い降りてくる粒の大きな牡丹雪を下から見上げた時などは、雪なのに黒いかたまりが降ってきているかのように感じる事もありますが、いずれにしても雪は白、銀、黒のモノクロ(白黒)の世界としてイメージされることでしょう。 ところが、日本を代表するフォーヴィスムの鬼才、里見勝蔵の手によると、動きも生命力もあまりない静かな雪景色に里見が野獣のような目を向けた時、モノクロ世界の雪景色はどうなるでしょうか。フォーヴィスムとは野獣のような激しい色彩と形で描かれた作品をいい、里見は29歳の時ヴラマンクに学び、まるで目の前で見せられた時の花火のような激しい画風でしられていますが、ここではそれと比べるとこれでも里見の激しい画面に比べると静かな方で、珍しく落ち着いた表現に抑えられています。 それでも雪には、様々な色彩が混色されキャンバス上に踊り、仮に実際の雪をすくい取ってきてこの絵の横に並べたならば、単なる白雪とはおよそかけ離れた雪の色となっていることがわかります。 のしかかかる鈍く分厚い塗り壁のような褐色の空。大波のように青、灰色を交えた波のようにうねる山並み。その空と山の雪を解け合わせてゆるゆると流れる雪まじりの川。樹木や動物たちの命を内に秘めた山々は、春を待望しつつ雪を融かし、死のイメージのある閉ざされた白銀の世界、その表皮を脱ぎ捨て、川へおし流し、冬を完全に捨て去ろうとしているかのようです。力強い春への思いが雪の色に混入されています。 この「雪山」の景色で里見は、ゆっくりであってもゆるぎない生命の胎動の力強さを、静かに穏やかにうたいあげています。まるで雪は気温で融けるものではなく、山が、冬を脱ぎ捨てる自らの意思によって春を到来させるのだとでもいうように。 (志賀秀孝「所蔵品から」『府中市美術館だより』第25号、2008年11月、府中市美術館) |
