カフェの入口

作者長谷川利行
ArtistHASEKAWA Toshiyuki
TitleCafe Entrance
制作時期昭和5年(1930)
技法・材質キャンバス、油彩
サイズ60.3cm×50.0cm
署名等画面左下:TOSHIYUKI HASEGAWA 1930
取得方法購入
取得年度平成8年度
コレクション名河野コレクション
所蔵品目録番号0177
作品解説赤、黒、白等の簡素な色づかいと、荒々しい剛直な筆致で建物の正面を描いている。ガラスのはめ込まれた大きな扉と窓が口を空け、左右には鉢入りの植木が飾ってある。一見して普通の民家ではなくモダンな造りの商店か何かを思わせる。戦後の画集には「レストラン」の画題で図版が紹介されたこともあるが、描かれているのが昭和初年の東京の風景であることはまちがいないだろう。
 長谷川利行は、京都の警察官の家に生まれたが、若い頃の行動については不明なことが多い。大正15年(1926)に再上京して、第7回帝展•第13回二科展に初入選して以降は、二科の樗牛賞、1930年協会の協会賞を受賞するなどして一躍、画壇の注目を集めた。浅草、荒川、新宿などを放浪し、酒と女をこよなく愛し、都会の風俗を自由闊達に描きとめた。フォーヴィスム的ともいえる奔放な筆線を多用し、余白を残した半塗り状態の独特な画風を確立した。最後は行路病者として板橋の養育院で果てたが、貧困の内にも詩情農かな傑作を多く生み出している。《カフェの入口》は長谷川の生涯の中で、もっとも画作旺盛な時期に描かれた作品である。
画家はこんな一節を詩に残している。「うすねづみ色の うしろ姿である 部屋の片すみを 遁れて行く あすぱらがすを 食べたいナ」(「キャツフヱ・オリヱントの印象」)。
 長谷川利行は街の華やかな表面よりも、その隙間にみえる影の部分にこそやさしい視線を注いでいたともいえる。関東大震災以後、急速に復興した東京には、きらびやかさと猥雑さが同居して、怪しい魅力を放っていたが、画家は透明な詩情をもってその姿を活写したのである。
(武居利史「作品解説」『府中市美術館所蔵作品50選』2000年、府中市美術館)

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