位相‐大地1
| 作者 | 関根伸夫 |
|---|---|
| Artist | SEKINE Nobuo |
| Title | Phase - Mother Earth 1 |
| 制作時期 | 昭和61年(1986) |
| 技法・材質 | アルシュ紙、シルクスクリーン |
| サイズ | 100.0cm×200.0cm |
| 署名等 | 画面右下:H. seki ‘86 |
| 取得方法 | 購入 |
| 取得年度 | 令和3年度 |
| 所蔵品目録番号 | 2303 |
| 作品解説 | 本作はシルクスクリーンという技法で刷られた版画、25枚のうちの1枚です。画面は、8点の写真とカラフルなスケッチにより構成されています。一番大きなカラー写真は野外の風景で、地面に正円形の穴が空いており、奥に円柱が立っています。大地には濃い影が落ち、強い日差しを感じさせます。下方の書き込みから、穴と柱は同形で、直径は2.2メートル、深さ/高さは2.7メートルであることがわかります。残り7点の白黒写真は制作過程を写しています。男性たち(作者である関根伸夫もいます)が地面を掘り、地上に組んだ円筒形の型に土を押し固め、型を外しています。スケッチにはアーチや山型をした巨大な建造物が描かれており、地球の絵の脇には「思考実験」「裏がえしの地球」「反地球の証明」とあって、作品を理解するヒントが隠れていそうです。 ここに示されている作品は、1968年に開催された野外彫刻展「第1回神戸須磨離宮公園現代彫刻展」で発表された《位相―大地》です。現地で、そこにある材料を用いて制作され、展覧会終了後に解体されました。大地を舞台とした、1回限りのスケールの大きな作品です。 関根伸夫は多摩美術大学を卒業したばかりで、スポンジや油土に力を加えて変形させ、大きな力の作用を強烈に実感させる作品を発表していました。関根を含む一群の若い作家たちは、工業製品や自然物を用い、未加工のまま組み合わせるなどして、ある状態や状況を提示しました。彼らは後に「もの派」と呼ばれるようになり、《位相―大地》は「もの派」の起点として位置付けられていきます。1980年代に入ると海外における「もの派」評価は高まり、グローバル化が進む現在では戦後日本を代表する動向として定着し、関連作家たちの作品はニューヨークの近代美術館やロンドンのテイトギャラリーなどに収蔵されています。 《位相―大地》の後、関根は画廊での発表や美術賞を受賞するなど活躍し、1970年「第35回ヴェネチア・ビエンナーレ」日本代表に選ばれました。1973年には、美術をより広く都市のなかで展開すべく、環境美術研究所を設立し、彫刻を中心に広場や公園の設計を手がけました。400か所にも及ぶ「環境美術」には、都庁舎の《水の神殿》《空の台座》(いずれも1991年)、府中市立総合公園の日時計モニュメン卜《人人の門》(1986年)、多磨霊園みたま堂の界壁《波動の風景》とモニュメント《波の円錐》(1993年)などが含まれます。私たちは関根の「環境美術」を、日常の風景として眺めているかもしれません。 《位相―大地》も、関根のつくった風景です。この風景はいっときのみ存在し、美術史に名を刻みました。本作は、この記念碑的作品を作者自身が残すことを試みた、ひとつのかたちであるのです。 (神山亮子「所蔵品から」『府中市美術館だより』第55号、2022年3月、府中市美術館) |
