蘭人観桜図

作者司馬江漢
ArtistSHIBA Kokan
TitleWesterners Viewing Cherry Blossoms
制作時期寛政年間(1789-1800)頃
技法・材質絹本淡彩
サイズ26.2cm×21.8cm
署名等画面左上:Zoo tat Kerssen boom 画面右上:江漢峻写(白文方印)司馬峻印 (白文方印)君岳
取得方法購入
取得年度令和3年度
所蔵品目録番号2300
作品解説司馬江漢は江戸時代の画家です。町人の子に生まれ、鈴木春信門下の浮世絵師として出発しました。その後、20代の中頃に中国風の絵画に転向し、更に30代の時に興味を持ったのが、西洋の絵画でした。西洋の技術を研究して、日本初のエッチング(腐蝕銅版画)を作ったり、自製の油絵の具を使った油彩画などを描いたりしています。また、水墨画や淡彩画といった日本の手法を使った、この作品のような洋風画も描きました。日本の絵の美しさを生かしつつ、西洋風の題材や表現の面白さを取り入れたのです。
 鉢植えの桜を眺める二人のオランダ人。江戸参府のために、長崎の出島からはるばるやって来たのでしょうか。桜の若木は、元気いっぱいの白い花を咲かせています。平安時代から和歌で「花」といえば桜のことですが、江戸時代の人にも桜は日本の代表的な花だという意識がありました。オランダ人という異国の題材が面白い作品ですが、絵の中の彼らもまた、桜を見ながらきっと異国を感じているのでしょう。服には陰が付けられ、地面には影法師が表されていて、日本の絵らしい清々しい空気の中に、ちょっとだけ西洋の描き方が取り込まれています。「Zoo tat Kerssen boom」というオランダ語は「桜の木が咲いている」という意味のようですが、これも魅力的です。絵の中に「異国の面白さ」がいくつもあって、広がりと深みのあるファンタスティックな作品に仕上がっています。
 江戸時代に描かれた異国趣味の絵は少なくありませんが、概して強烈で、いかにも物珍しさを狙ったものが多く見られます。しかしこの絵は、一幅の掛抽として、柔らかで物静かです。その表現の深さ、アイディアの本気度、そしてセンスの良さは、オランダのことを思い続けた江漢ならではという気がします。
 江漢の師である春信は、浮世絵師としては異色で、清雅な作品を描いた画家でした。浮世絵師時代の江漢も春信そっくりの絵を描き、静かな趣を表現しています。また江漢は、実は一人の文人でもありました。文人とは、高い教養を持ち、自身の感じ方を大事にして、世俗に媚びない清らかな心の世界を大切にする人たちのことです。そうした文人たちが心模様を絵筆に託したのが文人画ですが、日本の文人のほとんどが憧れの中国の題材を描いたのに対して、江漢は西洋という世界に心を遊ばせました。江漢は「文人洋風画家」なのです。
(金子信久「所蔵品から」『府中市美術館だより』第56号、2022年9月、府中市美術館)

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