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タブロオ機械・Ⅲ
| 作者 | 中村宏 |
|---|---|
| Artist | NAKAMURA Hiroshi |
| Title | Tableau Machine Ⅲ |
| 制作時期 | 平成6年(1994) |
| 技法・材質 | キャンバス、アクリル 8枚組 |
| サイズ | 各117.0cm×91.0cm |
| 取得方法 | 中村宏氏寄贈 |
| 取得年度 | 平成24年度 |
| 所蔵品目録番号 | 1855 |
| 作品解説 | 列車の座席から窓外を眺めると、刻々と風景が移り変わる。そんなとき、遠い昔の記憶が自然とよみがえってきた経験はないだろうか。移ろう風景に人生の来し方行く末を心の中で重ねた体験は、誰でもあるにちがいない。では、それを絵画に表現してみたらどうだろう。作者も、そんな想いを抱いたのかもしれない。 「車窓体験を持つ意識に、感情移入を期待すること、つまりイリュージョンを画像化すること以上に、画像自体を構造としてとらえようとする時、絵画のその枠はひとつではなく、実にふたつ、またはそれ以上であり、絵画を絵画で語れるだろうか、と思うところへ飛躍してゆく。絵画を絵画で語ろうとする絵画。絵画による絵画物語が、この車窓篇であった。わたしはこの画像のメカニズムをタブロー機械論と呼びたいと思う。それは同時にタブローの連鎖による絵画論としての絵画へのセンチメンタル・ジャーニーである。」(「新宿発下り中央本線車窓より」1984年) この8点から成る大作を横一列に並べると、あたかも動く列車の窓のようだ。そして窓外には、仄暗い記憶の風景が顔をのぞかせる。上部には「絵画内絵画記」と書かれ、左側から順に「1950」「1960」「1970」「1980」「1990」の年代を表す数字が示されている。その一枚一枚に、画家自身にとっての絵画制作の遍歴が暗示されていることは、具体的に描かれている事物からも明らかであろう。 1932年静岡県浜松市に生まれ、日本大学芸術学部で学んだ中村宏は、1950年代に《砂川五番》など社会的事件を描くルポルタージュ絵画で注目され、さらにモンタージュ絵画を発表した。1960年代には「観光芸術」を提起し、一貰してアヴァンギャルドの絵画論を展開してきた。「タブローも、ぺちゃんこの機械」という「タブロー機械論」は、シリーズ〈車窓篇〉を生み出す。本作は冷戦終結という時代の転換期にあって、画家自身が自らの人生をふりかえり、思い出をよみがえらせつつ、警戒線で封鎖したメモリアルな作品といえよう。 (武居利史「所蔵品から」『府中市美術館だより』第45号、2017年3月、府中市美術館) |
