青年像

作者山本日子士良
ArtistYAMAMOTO Hikoshiro
TitlePortrait of a Young Man
制作時期昭和22年(1947)
技法・材質キャンバス、油彩
サイズ116.7cm×91.0cm
署名等画面左下:1947 H.Y
取得方法鈴木節男氏寄贈
取得年度平成23年度
所蔵品目録番号1906
作品解説椅子にまたがって背もたれに右腕をのせ、左の手で頬杖をつきながら、こちらをキリリと見つめる若者。白いワイシャツに灰色のズボン、腕時計をした右手に帽子をつかんでいるが、草履履きの軽装である。仕事を終えたあとの休息のひとときであるのか、その眼差しは明日へと向けられているようにも感じる。奥には、鏡か窓のようにも見える黒と白の絵の入った額縁らしきものが認められる。机の上にはチューブ入り絵の具が置かれ、画家のアトリエを想像させる。この青年のモデルは、何者だろうか。全体に質素だけれども、何かはつらつとした希望に満ちている。
 実は、モデルは画家自身であった。山本日子士良(1910-93)という洋画家だ。描かれたのは戦後まもなくのことで、第3回日展に出品された作品である。当時37歳であったが、この絵の主人公はずっと若々しい。奈良県磯城郡に生まれ、大阪市に育った山本は、進学のため上京。東京美術学校の和田英作教室に学び、新文展や東光会展で発表した。戦時中は、従軍画家として活躍し、戦争を題材とした作品で受賞もしたが、ほとんどの作品は焼失して残っていない。復員してからは、新宿区立牛込仲之小学校の教員となり、絵筆を執った。この作品も当時の校内で描いたと思われる。
 日本の敗戦は、画家の人生にとって大きな転機だったにちがいない。同じく日本美術も再出発せねばならず、新しいリアリズムの創造が論議された時代だった。山本は、近代リアリズムの提唱者であるクールベをよく研究したが、本作では「セザンヌ風の淡い色や幅広い筆触の動きが見える」と美術評論家の三宅正太郎にのちに指摘されている。戦後しばらく、人間の絆を確かめるかのように家族の団欒を描いた。この作品には、絵一筋に生きていこうという決意と、復興への願いが込められているように思えてならない。
(武居利史「所蔵品から」『府中市美術館だより』第34号、2012年3月、府中市美術館)

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