月下山水図

作者墨江武禅
ArtistSUMIE Buzen
TitleLandscape in the Moonlight
制作時期江戸時代後期
技法・材質絹本墨画 1幅
サイズ111.9cm×40.7cm
署名等画面左下:墨江武禅 (朱文方印)武禅
取得方法購入
取得年度平成20年度
所蔵品目録番号1145
作品解説この絵について語るのは、なかなか難しいものです。一言で言えば、月の光に照らされた静かな風景なのですが、山や陸地や木々の様子は、浮かび上がっているようにも見え、逆に、引っ込んでいるようにも見えます。美しいと同時に、とても不思議な感覚です。
 木々に注目してみましょう。夜の暗い水面をバックにした木々は、普通考えれば、水面の部分にうっすらと墨を塗って、その上に直接、幹や枝葉を描くところでしょう。しかしこの絵では、枝葉の一帯が塗り残され、その区画の中に細かく枝葉が描かれています。奥にある木ほど枝葉は淡く表されていますが、中には水面より淡いところも見られます。つまり、この方法によって、水面の色に関係なく淡く明るい調子で枝葉を描くことが可能になっているのです。夜の闇と月光を浴びる木々、その両者を階調豊かに表現するための工夫と言えそうですが、同時にそれが、まるでネガフィルムを見ているかのような不思議さを感じさせる理由でもあります。
 作者、墨江武禅(1734-1806)は、大坂の画家ですが、江戸時代の大坂の美術によほど詳しい方でなければ、その名はご存じないかもしれません。はじめ船頭をしていたものの、絵が好きで、ついに画家になったと伝える資料があります。また、絵だけではなく、彫金や盆石でも活躍したようですが、画業の全貌や詳しい履歴などは、まだ解明されていません。
 この絵が描かれたのは、恐らく18世紀後半のことでしょう。京では、曾我蕭白や伊藤若冲らが個性的な作風で話題を呼び、江戸では、少し遅れて、司馬江漢が西洋画法という進取の方法で創作に挑んだ時代でした。そんな時代、大坂にもまた独特の画境を試みた画家がいたのです。この作品だけを見ていると意外に思われるかもしれませんが、武禅には、舶載西洋画を模写したと思われる作品もあります。「光」を描くという、西洋からもたらされた表現。それを新しい趣向とした武禅のこの絵は、奇抜で、そして、まるで精巧なガラス細工のような美しさと情感をたたえています。
(金子信久「所蔵品から」『府中市美術館だより』第27号、2009年11月、府中市美術館)

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