小金井の桜

作者五百城文哉
ArtistIOKI Bunsai
TitleCherry Blossoms at Koganei
制作時期制作年不詳
技法・材質キャンバス、油彩
サイズ66.0cm×120.4cm
署名等画面左下:K. Ioki
取得方法購入
取得年度平成18年度
所蔵品目録番号1162
作品解説桜の名所、といえばどこを思い浮かべるでしょうか。皇居のお濠端、上野公園、武蔵野では井の頭公園、はたまた多磨霊園…しかし、江戸時代から昭和の初めにかけて、小金井の桜といえば、大変有名な名所でした。
 元文2(1737)年、川崎平右衛門定孝が中心となり、玉川上水沿いの小金井橋を中心とする上下6キロの両岸に山桜を植えます。これがのちに『江戸名所図会』にも描かれる名勝・小金井の桜となっていくのです。この名勝は歌川広重の浮世絵にも描かれました。小金井橋とその脇の茶店(柏屋)、花見をする人々は小金井の桜の典型的な風景となっていきます。
 この絵に描かれているのは、暖かそうな春の日差しのなか、傘をさしながら橋を渡る羽織姿の人々。水に映った桜の様子を眺めているようです。橋のたもと、茶店の前の床几(しょうぎ)には、花見にきた親子でしょうか、老婆と男性が休んでいます。行き交う人々の数も多くはなく、のんびりとした春の行楽日和が軽やかな筆致で描き出されています。絵の具は全体的にごく薄塗りながら、両岸に咲く山桜の花々には白っぽい絵の具がやや厚めに塗り重ねられています。春の日差しをきらきらと跳ね返す桜の花々。茶屋の屋根、簾には日差しがあたり、うららかな春の日差しが的確に捉えられています。
 描いたのは、明治時代の画家、五百城文哉。後に日光に移り、主に外国人向けに日本の風俗や社寺を描いた水彩画を多く残しています。高山植物を描いた作品も多く知られるようになり、近年その画業が見直されつつあります。この絵の玉川上水の岸辺の様子を見ると、石で護岸されておらず、土の岸辺にはたんぽぽが描きこまれています。明治30(1897)年頃に撮影されたと考えられる古写真にはすでに石で護岸された様子が写されています。また、署名がK·Iokiとなっていることから、この作品は五百城が幼名・熊吉から画名・文哉へと改名する明治25(1892)年以前の作品と考えられます。
 大正13(1924)年に小金井の桜が国の名勝に指定されてからは、近くの甲武鉄道(現在のJR中央線)も花見客で大変な混雑となります。この絵は、のどかだった小金井桜の風景をとどめている貴重な一枚といえるでしょう。
(大澤真理子「所蔵品から」『府中市美術館だより』第49号、2019年2月、府中市美術館)

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