ドローイング
| 作者 | 剣持和夫 |
|---|---|
| Artist | KENMOCHI Kazuo |
| Title | Drawing |
| 制作時期 | 昭和61年(1986) |
| 技法・材質 | パネル、紙、油彩、板 |
| サイズ | 226.0cm×143.0cm |
| 署名等 | 画面左下:’86 K |
| 取得方法 | 竹下都氏寄贈 |
| 取得年度 | 平成17年度 |
| 所蔵品目録番号 | 1216 |
| 作品解説 | 作品の前に立つと、自分の身丈を超える大きな画面。縦に4本の木の板が貼りつけられ、茶褐色の油絵の具が荒々しく、指も使って塗りつけられている。よく観ると、下地には白黒の写真が上下に貼り込まれているのもわかる。何が写っているのかは判然としないが、木の床や壁、天井といった室内風景のようだ。暗く陰うつな気分もたたえるが、それを凌駕する激しい情熱のようなものが全体を覆う。作者はどんな想いを込め、この作品を制作したのだろうか。眺めるたびにミステリアスな作品である。 作者の剣持和夫(1951年神奈川県小田原市生まれ)は、日本大学芸術学部油絵科を卒業し、1970年代から90年代にかけて、空間全体を作品にする大規模なインスタレーションの作家として活躍した。この作品は、1986年11月11日から12月5日、佐賀町エキジビット・スペースで開催された個展の出品作の一つ。食糧ビルディングという1927年東京・下町に建てられたレトロモダンな建築の内部に、大量の廃材を持ち込んだのだ。忽然と現れた廃墟のような空間を生み出し、美術界の話題をさらう。この展示のときの作品を、当館は5点収蔵している。日本がバブル景気に沸きたち、都市改造へと進む時代、それに逆らうかのような原初的な感性に訴えた剣持の表現に、多くの人々が魅了された。 上端に、読みにくいが「1975 INSTALLATION AN ISOLATION WARD GALLERY MAKI」の文字が見える。1975年真木画廊で発表したインスタレーション《隔離病棟》を意味している。つまり、この作品を制作するよりも11年前にさかのぼる、自身の作品の写真と材料として用いた板の上に、新たに描いたものなのだ。インスタレーションという表現形式は、発表後に写真などの資料を除いて消滅してしまうことが多い。インスタレーション作家にとって、記憶はとても大切なものだ。その自らの記憶を否定し、封印するかのように、新たな表現へと挑戦する作家の力強い決意のようなものが伝わる作品である。 (武居利史「所蔵品から」『府中市美術館だより』第43号、2016年3月、府中市美術館) |
