王昭君図

作者司馬江漢
ArtistSHIBA Kokan
TitlePortrait of Wang Zhaojun
制作時期江戸時代後期
技法・材質絹本着色 1幅
サイズ80.6㎝×31.0㎝
署名等画面右下:江漢司馬峻写 (白文方印)司馬峻印 (朱文方印)君岳
取得方法購入
取得年度平成17年度
所蔵品目録番号1144
作品解説松の古木の傍らで、岩を背に物思いにふける中国女性。琵琶を弾く手をとめ、憂いに満ちた目で彼方を見つめています。とても細やかに表された着物の文様や髪飾り、消え入ってしまうような繊細な目鼻の表現も、もの静かな空気を醸し出しています。王昭君は、古代中国の漢の時代、元帝の後宮の女性の一人でしたが、紛争の中で匈奴に差し出され悲運の人生を送ったとされています。江戸時代の日本では、楊貴妃をはじめとする中国の女性のエピソードが流布して、この作品のような美しい絵が多数描かれ、人気を呼びました。
 作者、司馬江漢(1747-1818)は、日本初の腐蝕銅版画や数々の油彩風景画で知られています。しかし、いわゆる洋風画家として活躍する以前にも、様々なスタイルの作品を手がけました。10代の頃、鈴木春信風の浮世絵美人画を描き、20代で宋紫石に学び、南蘋派という中国からもたらされた華麗な花烏画の世界に傾倒しています。美人画にも花鳥画にも、江戸の人らしいさっぱりとした感覚を発揮しました。
 この作品では、当時京都で人気を誇っていた円山応挙一派からの影響が現れています。人物にも松にも、円山派特有の軽やかな筆づかいや、透明感と美しい濃淡をもつ色づかいがみられます。安永年間(1772-81)の末から天明年間(1781-89)の初め頃の作と思われますが、その頃江漢は、まだ京都に行ったことがありませんでした。江戸にもたらされた円山派の作品をみて、独自に応挙一派の画風を身につけたのでしょう。京都の画人たちの作品にはない、くすんだ青や緑といった抑え気味の色やどこか寂しげな趣は、江漢らしいところです。様々な画法を吸収しながらも、常に自身の一貫した感覚で消化していったのです。
(金子信久「所蔵品から」『府中市美術館だより』第19号、2006年7月、府中市美術館)

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