作者牛島憲之
ArtistUSHIJIMA Noriyuki
TitleDaytime
制作時期昭和51年(1976)
技法・材質キャンバス、油彩
サイズ91.0cm×60.6cm
署名等画面右下:ushi
取得方法購入
取得年度平成17年度
所蔵品目録番号1779
作品解説縦長のキャンバスです。下から見上げるように描かれた、左側に手すりのついた煙突とひょろっとした葉のない一本の木があり、右に煉瓦色の時計台がのっそりと立っています。それらが、右上に白く浮かんだ昼の月を頂点とするゆらりとした三角形を形づくっています。背景は、白っぽい湿気を含んだ青い空一色です。どこか間延びした、時が止まったような昼の月をとりまく情景が見事に捉えられていて、空を見上げている作者のリアルな空白感に知らず知らず見る者は引き込まれる仕掛けになっています。
 東京駒場にある東京大学の時計台は、構図にうるさい牛島憲之お気に入りのモチーフでした。牛島は、世田谷の自宅から歩いてよく写生に行っていたといいます。設計は内田祥三と清水幸重で、昭和8年(1933)の建築であり、戦前は旧制第一高等学校でしたが、現在は教養学部の1号館にあたります。登録有形文化財にもなっている、煉瓦づくりのモダンな美しい建物です。
 この《昼》の他にも昭和51年に「昼の時計台」と題した小品が数点あり、時計台のモチーフは以後も何度か繰り返し制作されています。当館所蔵の《ある日》は平成2年(1990)の制作であり、やはりこの時計台を正面から、かなり簡略化して描いている飄逸な絵画です。
 絵と実際の時計台とは大きく違っています。現実の時計台は菱形になっていないし、テラスや電球灯も付いていません。また興味深いのは、絵の中で比べてみてもどれ一つとして同じかたちの時計台がないということです。塔の長さと太さ、テラスの有無、各塔頂の長さ(左右同じものもあれば片方が長いものもある)、窓の位置や数など、みなそれぞれ異なっているのです。牛島の絵作りの自在さがよく分かります。よく見ていると次第に、樹や煙突もそうなのですが、時計台が生き物のように見えてきます。牛島憲之が描いた時計台は、まるで個性的な役者のように、それぞれの絵が要求する役柄を、姿を変えつつ演じ分けているかのようです。
(山村仁志「所蔵品から」『府中市美術館だより』第21号、2007年6月、府中市美術館より一部修正)

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