真昼

作者瑛九
ArtistEikyu
TitleMidday
制作時期昭和33年(1958)
技法・材質キャンバス、油彩
サイズ38.0cm×45.4cm
署名等画面右上:Q 1958
取得方法購入
取得年度平成8年度
コレクション名河野コレクション
所蔵品目録番号0045
作品解説三原色を基本とする限定された絵の具を用い、筆触分割によって画面全体を覆い尽くしている。筆の流れが画面の中心に向かってうねりを生み出している。中央部は色彩のコントラストが強く、周辺部と比べて鮮やかに眼に映じ、不思議な光を放っているかにみえる。
 瑛九は、画家、写真家であり、また詩人、批評家でもあった。多才な人物だったが、その一面においては光の芸術家であったといえよう。48歳で生涯を閉じる数年間の、カラフルな斑点の作風からさらに、霧のように細かな点描の作調へと展開する過程で、生み出されたのが本作である。
 瑛九は、宮崎に生まれ、本名を杉田秀夫といった。上京した十代後半には、美術評論を雑誌に投稿しながら、油絵や写真の研究に打ち込み、早くからフォトグラムの制作を始めた。フォトグラムとは、印画紙と光源の間に物体を置いて露光させ、抽象的な形象を構成する写真で、海外ではマン・レイやモホリ゠ナギが試みていたものである。昭和11年(1936)には、瑛九の名で「フォト・デッサン」を発表し、作品集も刊行した。同年、新時代洋画展の同人になり、その翌年に自由美術家協会の創立にも参加して、戦前から日本の抽象絵画、シュールレアリスムの先駆者として活躍することになった。
 戦後は、デモクラート美術家協会を結成し、その中心的な存在であった。生来、自由な創造を求め続けた画家だけに、作風もまたおおらかで対象に縛られることを嫌った。印象派風の具象を描いたこともあるが、瑛九の関心は再現すべき実体をもたない画面に向けられていたかにみえる。瑛九にとって、光はその探究の媒介者であり、抽象ともシュールともいえる独自の造形にも光はその重要な要素であった。
 本作は、描くべき明確な対象も空間もなく、ただ真昼の太陽のように観る者を眩惑するエネルギーに満ちた作品である。
(武居利史「作品解説」『府中市美術館所蔵作品50選』2000年、府中市美術館)

PageTop