No.297 (Photographer)

作者高松次郎
ArtistTAKAMATSU Jiro
TitleNo.297 (Photographer)
制作時期昭和45年(1970)
技法・材質キャンバス、油彩
サイズ90.5cm×72.5cm
取得方法購入
取得年度平成14年度
所蔵品目録番号1021
作品解説カメラのファインダーを覗く男性の横顔——の影が、キャンバスの3分の2ほどを占めています。
 近づいて見てみると、背景の白い部分には、いろいろな方向から塗られた筆跡が残ります。影の部分も同じく筆で赤みがかった灰色に塗り込められており、輪郭線にはより濃い灰色が使われていて、境界を影の内側と外側からぼかすようにしてあります。したがって、男の影は常に揺らいでいるように、私たちの目に映ります。
 影は、光が物にさえぎられ、その後ろに生ずる像です。影が見えるということは、その元となる人や物が、影と光源との間に存在するはずです。ところが、ここには影だけがあります。
 作品の前に立つと、背後の照明を受けて自分の影が作品にかかる時があります。作品の影の主を探して、思わず後ろを振り返ってしまう経験を、筆者は何度もしています。実に不思議な感覚におちいる瞬間です。
 さて、この影の主は何を撮影しようとしているのでしょうか。撮影の対象は描かれておらず、私たちが知ることはできません。キャンバスの外にあるべき存在が、影の主以外にもう一つ示唆されているわけです。
 「影/かげ」に関しては、人と関わる言葉がいくつもあります。「おもかげ」は、心に浮かべる顔形や姿のこと。「影が薄い」とは、人が与える印象を例える表現です。影は身近で奇妙な物理現象というだけでなく、人のあり様に深く分け入る、その入り口としても存在しているようです。
 影で遊んだ記憶はどなたにもあるのではないでしょうか。自分の影が別の人格を持ち始めて、自分の意志とは無関係に動き出したら…。そんな想像を起こさせる作品です。
(神山亮子「所蔵品から」『府中市美術館だより』第35号、2012年8月、府中市美術館)

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