富士遠望

作者渡辺文三郎
ArtistWATANABE Bunzaburo
TitleDistant View of Mt.Fuji
制作時期制作年不詳
技法・材質キャンバス、油彩 
サイズ34.5cm×69.0cm
署名等画面左下:美山写
取得方法購入
取得年度平成13年度
所蔵品目録番号1057
作品解説渡辺文三郎(1853-1936)は、岡山に生まれ、上京して五姓田義松に学び、明治洋画壇で活躍した主要画家の一人ですが、今日知られる渡辺の作品は稀有であり、その画業は判然としていません。
 五姓田義松の妹で画家の幽香(勇子)と渡辺文三郎は明治9年(1876)に結婚し、義松滞欧中の塾を預かり、同13年に上京した同郷の松原三五郎らに洋画を教えています。内国勧業博覧会(第1回、2回)に出品し、褒状を得、明治18年には、当時17歳の横山大観に3年間、日曜日毎に鉛筆画を教えたといいます。明治22年の明治美術会、明治32年の太平洋画会の創設に関わり、文展にも出品し活躍したのでした。
 冠雪の富士を中央やや左に配し、のびやかで美しい稜線が横長の画面いっぱいに延びています。急勾配の坂下からこちらに上り来る旅人。荷を担う馬と馬追人。注意深く坂をおりる旅人。簑笠をつけた人の、たくし上げられた着物の足には脚絆が巻かれ、明治というよりは江戸の旅の風俗や風情を漂わせています。富士と海の位置からすると、静岡側の由比(薩埵峠)のあたりでしょうか。秋枯れの赤松と紅葉する木々は細かな筆づかいで丹念に描かれ、どの部分も均ーな絵の具の厚みを保っています。文三郎の他の作品にも共通する繊細な独特の筆致は、ここでも抜群の冴えをみせ、当時の旅情緒をみごとにとらえています。
(志賀秀孝「所蔵品から」『府中市美術館だより』第7号、2002年10月、府中市美術館)

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