壁画下絵

作者野田英夫
ArtistNODA Hideo
TitlePreparatory Drawing for a Mural
制作時期昭和9年(1934)
技法・材質紙、グアッシュ、油彩
サイズ18.3cm×31.7cm
取得方法購入
取得年度平成8年度
コレクション名河野コレクション
所蔵品目録番号0175
作品解説労働者たちがエレベーターに詰め込まれ、坑道を送られていく。左下にはたくましい男たちの顔のクローズアップ、その上には荒野に鉄塔の建ちならぶ遠景がみえる。右端には、幼子を背負う母の姿があり、足先は周囲に溶け込んでいる。鉄骨による構造物や回転する機械、積み上げられた物資などの、労働のイメージで画面が構成されている。男の顔は脂に汚れていてもその瞳は優しく、女の微笑と交差し、家族であることが暗示される。左に鉱山の現場、右に暮らす家を示し、対角の組み合わせで労働の日々を象徴的に表している。映画のモンタージュ技法のように、画面構築の手法にはきわめて巧みなものがある。
 野田英夫は、アメリカのカリフォルニア州に日系二世として生まれた。幼少時に父の郷里熊本に帰り、県立熊本中学を卒業するが、再び渡米してオークランド市ピエモンド・ハイスクールに入って油絵を初めて学んだ。卒業後、アート・ステューデンツ・リーグ教授アーノルド・ブランチに招かれ、ニューヨークに移った。昭和9年(1934)にはディエゴ・リベラのロックフェラー・センターの壁画制作の助手をつとめた。同年、政府事業によるシビック・センター壁画《移民》を完成させている。この作品は、壁画制作において野田が力をつけた時期のもので、残された下絵として貴重な作例である。
 1930年代初頭のアメリカは、大恐慌による社会不安が広がり、労働運動や社会主義運動がかがやきを増した時代だった。野田は、ニューヨークの進歩的な文化人の集まりであったジョン・リード・クラブにも出入りしていたという。底辺で働く人々への深い共感が、本作にも表れている。暗い全体のトーンにもかかわらず人々の表情は明るく、貧しくとも懸命に生きる庶民への眼差しは暖かい。野田は日本でも活躍したが、将来を期待されながらも三十歳で夭折している。
(武居利史「作品解説」『府中市美術館所蔵作品50選』2000年、府中市美術館)

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